左肘をぶつけた後の痛み
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左肘の痛みがある60代女性のお話です。
2週間ほど前に左肘の外側を物にぶつけました。さほどひどいぶつけ方でもなく、腫れたりしなかったのですが、その後、その辺りの痛みが続いていて、湿布などしていても改善しません。
日によって多少症状が違うようで、左肘外側のちょうどぶつけたあたりが痛いこともあれば内側の方が痛いこともあるようです。特に長時間運転している時に痛くなることが多く、時に左前腕の違和感もあります。
左前腕の内側については、今から5年ほど前に転倒した際に左前腕を痛めて、しばらく固定していたことがあり、左前腕の違和感は今でも時に意識しているそうです。今回の左前腕の内側が少し痛く感じるのはそのせいなのかもと感じています。
診察室でお話を伺っている間の症状は左前腕の内側の違和感程度で、痛みというほどではありません。あれこれと動かしてみながらどのような動作で痛みがあるのかを確認すると、左肘をピンと伸ばして前腕を回内するような力を入れると肘外側に3点の痛みがあります。他はあまりはっきりとした疼痛の再現ができません。
まずは姿勢をしっかりと矯正してみましたが、痛みの感じ方にあまり変化はないようです。
頚椎の可動域はよく保たれていて、左肘には影響ありません。
次に顎をしっかりと引いて頚椎から胸椎を伸展することを10回繰り返してみます。

さっきと同じように肘を伸ばしてひねるのやってみましょうか

こうやって内側に捻るとやっぱり痛いですね…

痛みの程度はどうでしょうか

そうですね… ん、あれっ、やっぱりさっきほどは痛くないかも…
何度か動きを繰り返ししているうちに痛みの感じ方が少し違うことに気づいたようです。
(RET 10回 B?)

あと10回やってみましょうか
同じ顎を引く動きを10回やってから、もう一度左肘の痛みを確認してもらいます。
何度か肘を伸ばして捻りながら、

…あれ、んっ?……あれっ、痛くないです!

ゼロ?

はい、今は全然…不思議!
(RET 10回 abolish B)
今回はぶつけた後から左肘が痛くなったというお話でしたが、ぶつけたのは肘の外側だったのに、数年前に痛めたことがあるという前腕の内側が痛いこともありました。痛みの場所が打った部位だけでなく他の部位も痛いことがあるという、普通の打撲ではちょっと説明がつかない症状だったのにお気づきでしょうか。
これまでにも一見すると外傷によるかのごとく見える痛みを「外傷モドキ」としてご紹介してきました。ぶつけてから痛くなったという痛みは、よほどひどいぶつけ方でなければ、普通はすぐに良くなりますよね。なのになぜかしらだらだらと痛みが続く、しかも痛い時もあれば痛くない時もある、痛い部位も少し違うことがある…そんなとき、本当にそれが打撲や捻挫による局所のダメージの痛みなのか疑ってみる必要があることを今回のお話からお伝えできれば幸いです。
今回ご紹介したお話と似たお話をマッケンジー法・症例ノート・#5: 〜右肘外側痛〜 整形外科医が自ら実践するマッケンジー法シリーズ Kindle版でもご紹介しています。ご興味のある方はご一読くださいませ。
マッケンジー法・症例ノート・#5: 〜右肘外側痛〜
1年以上前より誘因なく右肘痛を覚えるようになりました。右肘の外側に押さえると痛いところがあり、日常生活動作によって痛むことがあるようです。1年前は家事にも支障をきたしていたようですが、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)と診断され、整形外科、整骨院などで治療を受けても良くならなかったようです。マッケンジー法で評価した結果は……。
