case_296 右膝痛

膝にヒアルロン酸注射を受けていますが治りません

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右膝の痛みがある70代女性のお話です。

循環器系の大病を患ったこともある方ではありますが、もともとウォーキングなど体を動かすことは心がけていたようです。半年ほど前から右膝に多少の痛みを覚えるようになりましたが症状はさほどひどくはなかったので様子を見ていました。それから2ヶ月した頃、歩いていて急に右膝がコクンとなり、強い痛みが走りました。整形外科を受診しレントゲンなど検査を受けましたが特に異常はないとの説明で、痛み止めやヒアルロン酸注射などでそれなりに軽くはなったのですが、その後も坂道の特に登りの時や、しゃがむ動作などで右膝に痛みがあります。しかし、痛みの程度は日によって良かったり悪かったりという感じで、痛い時は6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)ほど、今日は2点とかなり幅があります。
痛みの部位も膝の内側が痛いことが多いのですが、膝蓋骨の下あたりや外側が痛いこともあり、痛みの場所や程度が変わるようです。

歩いている最中はさほど痛みを意識しないようですが、椅子からの立ち上がりで現在も4点の痛みがあることが確認できました。

単純X線検査では右膝の変形(内側型、KL3)が確認できました。

一通り、確認できる所見をご説明します。

佛坂
佛坂

今からレントゲン写真で見えているものをご説明しますが、これは他の病院にかかったときにそれが悪いと言われる可能性があるところをあえてご説明しておきますね

たとえ症状が全くない人でも、70代で変性所見のない膝関節は少ないでしょう。しかし、痛みがあって整形外科に行き単純X線検査をすると、変形した関節が写りますから、それが悪いのでその治療をしましょうと膝の注射治療が始まることが多いのです。

ご説明の後、もう一度立ち上がっていただき、現在の右膝の痛みが先ほどと同じ4点であることを確認します。

姿勢を整えて1分ほど保持してから伺います。

佛坂
佛坂

もう一度立ち上がって右膝の痛みを確認してもらえますか?

A子さん
A子さん

あらっ、さっきより痛くないような…

どのくらい良くなったか伺うと2点くらいに感じたようです。

(姿勢矯正保持 B 右膝痛 4→2点)

腰椎の可動域は年齢からみると軽度の制限がある程度で、特に腰椎の動きで右膝に響くことはありません。

座った状態で、背骨をしっかりと伸ばしては緩めることを10回繰り返してから、立ってみます。

佛坂
佛坂

右膝の痛みいかがです?

A子さん
A子さん

えっ?……痛くなかったです

佛坂
佛坂

0点?

A子さん
A子さん

0点じゃないけど…0.5点かな

かなり良い印象なので、さらに10回くりかえしてもらい、もう一度立ち上がってみます。

佛坂
佛坂

今はどうでした?

A子さん
A子さん

0点です!

佛坂
佛坂

面白いでしょ?膝の痛みが腰の体操で良くなるなんて

A子さん
A子さん

今までなんだったんだろう…目から鱗です

(SOC 10回×2 abolish B)

実は似たようなお話はこれまでに何度か症例ファイルでご紹介してきました。もちろん膝の痛みがある全ての人が同様に腰の体操で良くなるわけではありません。しかし、膝が痛くて膝のレントゲン写真に変形があることで、ヒアルロン酸注射を勧められ継続しているけどあまり変わらないという方の中には、今回ご紹介したような腰椎に関連した膝の痛みである可能性があるのです。「痛みの場所が変わる」、「同じ動作でも痛い時と痛くない時がある」などの症状があり、ヒアルロン酸注射を続けているが効果があまり感じられないという方は、ぜひ一度最寄りの国際マッケンジー協会認定資格をもつセラピストの在籍する施設で評価を受けることをお勧めいたします。


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