入院しているあいだに右肩が痛くて動かせなくなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肩の痛みで相談のあった80代女性のお話です。
糸島医師会病院は地域支援病院で内科の患者さんも多数入院されています。
今回ご紹介する女性は、内視鏡の検査と治療目的で内科に入院して内視鏡治療のため絶飲食の期間があり、その後も治療目的で比較的長くベッド上安静でした。徐々に症状は改善し、食事も食べられる様になってきた入院18日目に、右肩が痛くて上げられないことに気づきました。主治医の先生に相談したところ、痛みのある右肩のレントゲン撮影をされ、主治医から私に相談がありました。
右肩の単純エックス線写真をみると、肩関節には骨頭、肩峰に変形があり、肩峰下腔は狭く、肩腱板はおそらく変性断裂しているものと思われる状態です。
右肩の可動域は自動で前方へは20°程度の挙上と、脇を開ける外転は痛みがありほとんど動かせません。左肩は160°ほど挙上できます。
今回右肩が痛くなる前にはなんともない状態で左と同様に手は上がっていたそうです。
比較的高度の変形もあり、何らかの理由で急に発症した変形性肩関節症のようにも思えます。
もちろん画像所見は参考にはしますが、マッケンジー法ではやはり脊椎のスクリーニングを行います。
ベッドサイドに座っていただく姿勢をみると少し頭の前に出た猫背です。
この状態から頚椎から胸椎にかけて伸展方向に動かす動かし方をご説明し繰り返していただきます。

右肩を動かしてみましょうか

さっきより痛くないですね…
(SOC B)
前方挙上(前から手を挙げる)も40°くらいまで動かしても大丈夫の様です。
ご高齢ですが理解の良い方でしたので、座ってこまめにエクササイズをやるようにご説明しました。
それから6時間後。入院中の方は比較的短い時間内に経過を見ることができるのがメリットですね。

右肩の痛み具合、どうです?

もうなんともないです!
さっと、腕を上げて見せられました。
かなりこまめにエクササイズはやっておられたようです。

こんなに早く良くなってよかったです!

体操がんばりましたね!
今回のお話、いかがでしたか。
何もしていないのに急に肩が痛くなる…五十肩でもそんなことがあります。
この女性については肩の単純エックス線写真で比較的高度の変形も確認できました。一般的には局所の症状と画像所見がそろった段階で変形性肩関節症ないしそれに伴う肩腱板の変性断裂や関節炎の急性増悪のような診断がなされて消炎鎮痛剤の内服・外用や肩関節に対するヒアルロン酸注射、ステロイド注射と肩関節に対するリハビリ介入がなされることが多いのではないでしょうか。
しかし、マッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)で評価した結果は脊椎(主に頚椎)を動かすことで症状が速やかに症状が改善するタイプの右肩痛でした。画像診断と症状とが必ずしも合致しないことは以前にも何度かご紹介したことがありますが、今回もまさにそのうような病態だったと言えるでしょう。
今まで普通に動いて生活できていた人が、急にベッド上安静が続いて2週間ほどしたころに発症したというあたり、MDTセラピストならピンとくるところかも知れません。
マッケンジー法では症状と局所の所見はもちろんですが、生活背景などを詳しくお伺いします。それは生活パターンや癖、日常生活の中で繰り返される動作や姿勢などが症状を作り出すことがとても多いからなのです。
今回ご紹介したお話とは別に、肩の痛みがあり来院したご高齢の方で、レントゲン検査で肩関節に変形が確認できたものの頚椎に介入して症状改善したというお話をAmazonのKindle版 (電子書籍)でもご覧いただけます。
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