数ヶ月前から続いている後頚部痛
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は後頚部痛のある20代男性のお話です。
当院では新しく入職したリハビリのスタッフにはマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)の簡単な説明などしています。
職歴8年の理学療法士さんで、これまでには病院での勤務歴があり、術後だけでなくスポーツ整形外科領域のリハビリなどもやっていたというスタッフさんです。
一通りMDT講義を終えた後、何か自分自身の症状はないのか尋ねたところ、数ヶ月前から首の後ろの方が痛いようです。
首を動かしてもらうと、伸展(上を向く)のときに3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが再現できます。
また、右肩を挙上する時に右肩が詰まったような感じがあるようで、これについては以前右肩を骨折したことがあるらしく、自分なりに右肩周りのストレッチなどやっていたようです。
右肩の前方挙上は170°とたしかに左よりわずかですが制限があります。
姿勢を整えて1分ほど保持した後にもう一度首を動かしてみます。

上向くのやってみようか

さっきより痛くないです
いい印象なので続けてしっかりと頚椎から胸椎をしっかりと伸展する動きを繰り返してみます。
トータル10回終わってから確認してみます。

もう一回、さっきみたいに上向いてみようか
さきほどよりぐーんと上向けるのがわかります

痛くないです!

手を上げるのやってみようか
左右左なくしっかり上がったように見えます。

上がりました!
詰まった感じはないようです。
(SOC 10回 B)

これがさっき話していたDerangement※なんですよ
正確には、今後の経過を確認してみないと本当にDerangementであるとは言えませんが、暫定的にはDerangementとしてよさそうです。
日常的にあまり必要でない動作でしか症状が無いと、つい放置しがちな程度の軽い痛みや可動域制限でしたが、簡単なエクササイズで症状が改善することが確認できました。
自ら評価した一年間の外来患者のデータを集計したところ、実に全患者の67.4%がこのDerangement(適切な運動負荷で比較的早期に症状が改善する)でした。このデータは過去の世界的に有名な論文と同等の内容でした。
あることする時だけ痛い、動かしにくいなどのあまり困っていない症状であっても、無いに越したことはありませんね。
MDTで評価すると意外に簡単に改善することもあるのです。
※Derangement:マッケンジー法で用いられる病態分類のカテゴリー。詳しくは参考文献のリンクをご参照ください。医療関係者向けに書かれた文献ですが、考え方などの概要がまとめられています。
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マッケンジー法概要, 岩貞吉寛
Overview of the McKenzie Method®, Yoshihiro Iwasada, MS, Dip. MDT, PT
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmpt/21/2/21_51/_pdf/-char/ja