case_272 右膝痛

右膝がグジュグジュとした感覚があってから痛みが再発しました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は半年ほど前に一度良くなっていた右膝の痛みが再発して来院した70代女性のお話です。

何年も前に右膝が痛くなり変形性膝関節症と言われてヒアルロン酸治療を受けたこともあります。実はこの方、半年ほど前に一度診察に来られたことがあります。運転する機会が増えて1〜2ヶ月ほどしたころからの両膝の痛みで、車を降りたとき、朝起きたとき、立ち上がり、階段昇降、とくに降りるときなどに両膝痛(左>右)がありましたが、マッケンジー法により評価したところ、腰椎の伸展エクササイズで治癒しました。

症状が十分に良くなるまではかなり真面目にエクササイズに取り組んでいたようですが、症状が気にならなくなると同時に、徐々にエクササイズはサボるようになり、いつしかやめてしまったようです。その後も、時に右膝が痛くなることはあったようで、少し右膝が痛いなと感じるときにだけ以前やっていた腰のエクササイズを数回すると症状がよくなるので、エクササイズは症状がある時だけに少しだけやっていました。最近では少し右膝の痛みを意識することが増えたなと感じていたのですが、4日前に階段昇降が多いお仕事をした翌日、膝を少し捻ったような感じで右膝にグジュグジュっとした感じがして、直後から膝が痛くて動かせなくなりました。じっと我慢してその場をしのぎ、少し動けるようになってから、この数日で少しずつ動かせるようになったものの、立ち上がりや歩行時などに痛みがあり、歩く時は右膝をかなり意識して歩く状態が続いています。階段は一段ずつ足を揃えてしか上り下りできません。

今回は以前とは違って右膝にグジュグジュとした轢音を感じたとのことですし、ご本人も膝の状態が気になって受診して右膝の検査を希望されましたので、先に画像検査をすることになりました。
病歴からはMRIで半月板や滑膜などの状態を確認してもよさそうですが、まずはすぐに検査可能な単純X線写真(レントゲン写真)を撮影してみることにしました。

単純X線写真の所見では右膝内側外側には明確に認識できる骨棘形成あり、関節表面にも若干の不整が現れかかった変形の程度を表す分類でKL2(KL: Kellgren–Lawrence grades, 明確な骨棘、関節裂狭小化のはじまり)からKL3(骨棘、関節裂隙の狭小化が明確、硬化像)に移行しつつあるグレードのようです。

まずはお話を伺った後、そのまま座った状態での症状をうかがいます。

佛坂
佛坂

座ったままで右膝曲げ伸ばしできます?

A子さん
A子さん

曲げ伸ばしするとこの辺が痛いですね…

右膝の内側あたりに5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)があるようです。

立ち上がってもらいます。

佛坂
佛坂

いま立ち上がった時に右膝の痛みはどうでした?

A子さん
A子さん

今はそれほどでもなかったですね…

そのまま足踏みしてもらうと、やはり5点くらいの痛みがあります。

もう一度座ってもらい、姿勢を整えて1分ほど。

佛坂
佛坂

さっきと同じように右膝曲げ伸ばししてみましょうか

A子さん
A子さん

さっきよりすこし痛くないような…

立って足踏みしてもらいます。

A子さん
A子さん

さっきより少し痛くないです

佛坂
佛坂

何点くらい?

A子さん
A子さん

3点かな…

腰の動きなどには問題ないので、まずは以前やっていた立った状態で腰をしっかり伸展する運動をしてみることにします。
まずは以前やっていた体操を覚えておられるか確認して、少し修正しながら続けて10回。しっかりと腰椎を伸展してからお伺いします。

佛坂
佛坂

もう一度足踏みしてみましょうか

A子さん
A子さん

だいぶよくなりました

佛坂
佛坂

何点くらい?

A子さん
A子さん

いまはもう痛いのがわかるかなというくらいですから…1点かな

念の為、少し廊下を歩いてみてもらいます。

数十メートルくらい行ってもどってきてもらいました。

A子さん
A子さん

まだ少し痛いですけど、普通に歩けます!

膝がグジュグジュっとしてからの膝の痛み。皆さんはどんな病態を考えられたでしょうか。
マッケンジー法を知らなかったころの私でしたら変性所見の確認された単純X線画像所見、理学所見もあわせて間違いなく膝関節内の変性した半月板や滑膜などの挟まり込みなどを疑い、MRI検査などで半月板断裂などの所見(同年代では症状のあるなしにかかわらず確認されることが多い)を確認し、関節鏡視下処置をおすすめしたと思います。

しかし、マッケンジー法では必ず脊椎のスクリーニングを行い、その反応をみてさらに脊椎の評価を行うか、膝などその症状の局所の評価を行うか決めていきます。

正直なところ、お話を伺った後の脊椎スクリーニングの段階で、今回はさすがに膝の評価に移行するかも……と思って評価を始めたのですが、結果は腰椎のスクリーニングで以前と同様の良好な反応があり、症状は劇的に改善しました。

以前ご紹介したことがあるのですが、単純X線写真で変形性膝関節症と診断される患者も含まれる慢性の膝痛患者をマッケンジー法(MDT: Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)で評価した結果、膝の変形が明らかなもの(KL ≧ 2)についても最終的に腰椎に関連した疼痛であったものが21.1%存在したという報告があります。変形がある膝の痛みが腰椎に対する介入で良くなってしまったと言い換えることができます。今回ご紹介した方も、まさにこの5人に1人の方だったのだと考えられます。

何かしらのきっかけで急に痛くなった膝、MRI検査で異常が見つかり処置を勧められることは良く耳にするお話だと思います。
しかし、今回ご紹介したような症例もあるので、病歴に惑わされず、マッケンジー法のルールに従い脊椎から評価することの重要性をお伝えできれば幸いです。

The most common classification in the mechanical diagnosis and therapy for patients with a primary complaint of non-acute knee pain was Spinal Derangement: a retrospective chart review. J Man Manip Ther. 2019 Feb;27(1):33-42.