case_269 両膝痛・腰痛

3年ほど前から続く両膝痛

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両膝痛と腰痛のある70代女性のお話しです。

70代といっても、趣味でフラダンスをしているお元気な方です。

膝が痛くなってからは正座もできなくなってしまいました。

お伺いしたところ、3年ほど前まで、時々右膝が痛いことがあったのが、ある頃から急に痛みが強くなり、ダンスのしすぎだろうかと思ったそうです。近くの整形外科を受診したところ、MRI検査で半月板損傷と診断されたものの、高齢のためやれることがないと言われたのですが、その後、1週間ほどで歩くことはできる程度に改善したようです。その後、ある東洋医学の治療をうけているうちに徐々に改善し現在に至っていますが、早歩きで長時間歩くときやフラダンスのステップによっては痛むため、完治はしていません。東洋医学の治療を受けていたところで処方してもらったサポーターを装着してダンスをしています。それでも痛みがこないようにと意識しているとのことです。しゃがむことも避けています。
痛むのは右膝の方が強いようですが、両膝とも前の方という感じで、あまりここというはっきりとしたポイントはありません。

また、この数ヶ月は朝起きた時の腰痛も気になっています。

事前に撮影した単純X線写真では腰椎の前弯が強いようですが、変性は年齢の割には少なく椎間もよく保たれています。

外出などでは必ずつけているというサポーターを外していただきました。

A子さん
A子さん

このサポーターをつけるようにと言われたんですが、正直、少々うっとうしいんです…

言われるままにつけてはいたものの、できればサポーターはつけたくないようです。

座っている状態では症状はありません。

立ち上がる瞬間も、足踏みしても、今は痛くないようです。

佛坂
佛坂

手で台を持ちながらでいいので、しゃがんでみましょうか

A子さん
A子さん

えっ?しゃがむんですか??

膝の痛みが悪くなるかもと思い、これまで避けていた動作だけにちょっと驚かれました。

佛坂
佛坂

痛かったら途中でやめていいのでできるところまでしゃがんでみましょう

ゆっくりとしゃがんでもらいます。しっかりとしゃがみ切る前に、

A子さん
A子さん

ここまでくると痛いです

今は痛いのは右膝だけで内側前方に痛みの程度は3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)です。

腰椎の可動域を確認すると、左右の動きが軽度制限され、痛みがありますが、このような動かし方をしたことがなく、初めて気づいた腰の痛みのようです。

(RSG 腰の左に3点、LSG 腰の右に5点)

立ったままで腰椎の伸展方向の動きから確認してみることにしました。

腰の伸展のやりかたをご説明して5回伸展したところで、

A子さん
A子さん

いま膝の内側にピリッと痛みが走りました…なんか上から繋がってるような感じで…

戻ったら元通りです。痛み方は違いましたが、腰椎に関連した症状のような印象です。

今度は座っていただき、腰をしっかり曲げる動きを繰り返してみます。

曲げ方のポイントなどご説明しつつ、10回。途中にはなんら症状はありません。
立ち上がっていただき、最初にしゃがんだのと同じようにしゃがんでいただくと、先ほどよりスムーズにできているようです。

佛坂
佛坂

痛みはどうです?

A子さん
A子さん

さっきより少しいいです

佛坂
佛坂

さっきは3点でしたが、今は?

A子さん
A子さん

2点かな…

いい印象ですからさらに10回、座位での腰椎屈曲を繰り返した後に立っていただき、しゃがみ込みを確認します。

A子さん
A子さん

さっきよりだいぶいいです!もう少しでお尻が足につきそう

佛坂
佛坂

痛みは何点?

A子さん
A子さん

1点ですね…痛いのは痛いんですが、だいぶしやすい感じです

まっすぐ立っていただき腰の横の動きも確認します。

佛坂
佛坂

さっきと同じように横に腰を動かしてみて痛みを確認してもらえますか?

先ほどよりスムーズにより深く腰が動かせているのがわかります。

A子さん
A子さん

今は痛くないです!

(FISit 10回×2 B)

半月板損傷は主にMRI画像所見で診断されるのはご存知の方も多いかと思います。

症状のない全米バスケットボール協会(NBA)の選手の膝をMRIで評価した報告があります。これは2005年シーズンの2ヶ月前に、関節軟骨、半月板、膝蓋骨および大腿四頭筋の異常について、14人のプレイヤー(28の膝)のMRI検査を行った結果を見たものです。28の膝のうちの25の膝(89.3%)に1つ以上の異常がみつかり、異常が見られなかったものはわずか3つの膝(10.7%)のみでした。つまり、何らかの画像上の病変があるにもかかわらず、NBAの選手は痛みなどの症状もなく超人的なパフォーマンスを発揮しているわけです。逆に、膝が痛くてMRIを撮影してみてなんらかの異常があったからそこが痛いのだとは決められないのだということになります。

もう何年も前のことなので今となっては何とも言えないのですが、今回ご紹介した女性がMRIで半月板損傷と診断された頃にマッケンジー法で評価してみたらどういう結果になっていたのか、皆さんはどうお考えになるでしょうか。

【参考文献】

Walczak BE, et al. Abnormal findings on knee magnetic resonance imaging in asymptomatic NBA players. J Knee Surg. 2008 Jan;21(1):27-33.


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マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、医学書のような難しい表現をできるだけ避け、雑誌やマンガ本を読む感覚でお気軽にマッケンジー法の世界を知っていただける本です。マッケンジー法を活用しているセラピストの皆さんにはもちろんのこと、一般の方にも読みやすいように各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を同じページで確認して読み進められるような内容になっています。

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