3年前から続く軽い腰痛
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は腰痛のある30代男性のお話です。
糸島医師会病院ではときどき大学医学部やリハビリ専門学校などの医療関係の学生さんが研修で回ってきます。リハビリテーションの見学の時間を使って、他であまり見る機会がないだろうと思われるマッケンジー法の簡単な講義と実際の患者さんの診察の様子を見学してもらっています。学生さんは比較的お若い方が多いのであまりこれといった体の痛いところもない人が多いのですが、ある学生さんが腰に少し痛みがあるというのでマッケンジー法による評価を体験してもらう事にしました。
社会人だった頃に勤めていた会社の引越し作業でのお話。3年前に重いものを持ったりしている時に、ぎっくり腰になりました。
一度マッサージに行き、その時は効果を感じませんでしたが、それから数日後に良くなっていき、1週間ほどでよくなったそうです。しかし、それ以降も寝転がって脚を上げると腰に痛みがあるので、そのような動作を避けていました。
その後、会社をやめて、医学系の道を志しました。学校では手技のデモもあるようですが、脚を上げると痛みが悪くなりそうなので、SLR(Straight Leg Raising、下肢を挙上して神経症状を確認する手技で使用します)をみる被験者にはあえてならなかったようです。以後、その動作を避けていれば特に生活では支障もなく重いものを抱えてもさほど意識することはなかったようで放置していました。
家ではテレビで映画を見るのが好きで、キャンプ用の椅子に座って見ています。
座っていて右足をピンと伸ばす時に腰に2点の痛みがありますが、仰向けになって脚を伸ばしたままで脚を上げると70°でこれ以上はあげたくないようなピリピリした感じが腰に再現できることを確認しました。
姿勢を矯正して保持すること1分。
さっきと同じように右足を伸ばして上げてみようか。……どう?
さっきみたいに痛くありません
(姿勢矯正保持 B)
よい反応が得られました。もともと元気で若い学生さんなので、最初から負荷をしっかりとかけてみることにしました。
うつ伏せで少々きついくらいの位置に手をついてもらいしっかりと腰を10回伸展してみます。
特に問題ないようなので、一度起き上がって軽く足踏みしてからもう一度座ってもらいます。
右脚を伸ばすのやってみようか
なんともないです!
仰向けに寝てもらい、脚を上げるSLRをさっきと同じように自分でやってみます。
ピリピリしなくなりました!
(EIL 10回 abolish B)
普段できるエクササイズとして立ったままでもできる方法などやってみてもらい、問題ないことを確認しました。
映画を見る時の椅子に座る時には途中で時々腰を伸ばすことなど説明して評価を終了しました。
そうそう、今回は、将来セラピストを目指している学生さんだったので、3年来の症状がその場で消えたという自らの体験からマッケンジー法にとても興味を持ってもらえたとは思うのですが、セラピストとしての徒手の手技を磨いた後に、マッケンジー法の認定資格も取得してくださいねと念押ししておきました。いつかきっと仲間になってくれる日が来るでしょう。
日常生活にはほとんど影響のない程度の症状。皆さんの中にも「このくらいは…」と放置している人がいらっしゃるのではないでしょうか。
中にはほんのちょっとしたことをやるだけで改善することもあるのです。
ぎっくり腰になったとき、皆さんはどのように治そうと思われるでしょうか。最近では何でもネットで検索できる時代ですから、まずはYouTubeで「ぎっくり腰」や「腰痛」のキーワードで探して見て、できそうなことをやってみる人もいらっしゃるでしょう。
でも、実際には腰の痛みには様々な原因がありますから、ネットの情報には限界があるばかりではなく、中にはネットで見つけた腰痛体操をやっていて悪くなることもあるでしょう。
ある腰痛体操で悪くなったというお話をAmazon Kindle版「マッケンジー法・症例ノート・#1(創刊号): 〜腰痛〜」でもご紹介しております。ご興味ある方はそちらもご覧くださいませ。