case_1 左上肢しびれ

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。

最初のお話は上を向くと左上肢にしびれがあるという40代男性のお話です。

この方、実は2年ほども前から上を向く(頚部後屈)ときに左上肢がしびれるのを自覚していましたが、この2ヵ月ほどは左肩に痛みもあります。

頚椎のレントゲン写真では側面で変形があります(C5/6の変性、左の椎間孔が骨棘形成で狭小化)。肩関節、肩鎖関節などには異常所見はありません。

マッケンジー法を学ぶ前の自分だったら、おそらく頚椎症性神経根症の診断で投薬、お近くの通いやすい病院への紹介で終わっていたでしょう。

しかし、マッケンジー法による介入はできそうです。

まずは日常生活動作、習慣なども含めた入念な問診。
そして姿勢のチェック。可動域の検査。上を向く動作には著明な制限(後屈 20°)があり、同時に左肩から手にかけてのしびれに再現性があります。日常的にパソコン作業が多い方で、頭部の位置がやや前方に突出しています。

(protrusion +)

一応逆方向も含めてそれぞれの方向で症状の起こり方などチェックします。

ベースラインは後屈制限と左上肢のしびれ、左肩鎖関節の圧痛です。

さて、神経根症と思われる患者に、しかも後屈で症状がでるという訴えがある中、そちらの方向にどう動かすか。

まずは前方に突出した頭部を後方にしっかりと戻すエクササイズを行いますが、あまり変化がありません。

さらに自分で押し込む力を加えてエクササイズを追加。これでも変化無し。
ここから一般的脊椎外科医からみると禁断の方向、頚椎の後屈です。
しっかりと頭部の位置を後方にもどした状態から頚椎を少しずつ後屈、左上肢の放散痛がでないレベルで、少しずつ、あせらずに……。

エクササイズしていると、患者さん自身、さっきまでほとんど上が向けなかったのに、だんだんと上が向けるようになってきたのを自覚してきました!

本当はあれこれと手を加えすぎると何が何だか分かりにくくなるのですが、理解力のあるガッチリとした患者さんなのでさらに先に進みます。

胸椎の伸展エクササイズを指導。さらに上が向きやすくなったのを自覚されます。
こうなってくるとさらに自分の考えている目標に向かってもう一歩先に行ってみたくなりますね!
すこし手を貸しながらさらなる胸椎伸展エクササイズをしてみると……。

ベースラインの後屈20°で左肩から手のしびれを覚えていた状態から天井を見るくらいまで後屈してもしびれは出ません!
そしてもう一つのベースライン、左肩鎖関節の圧痛は……なんと消失しています!

(RET+EXT B)

左肩鎖関節については胸椎伸展エクササイズで間接的にしか動かしておらず、本人も痛いところに触れてもいないのにエクササイズが終わったら痛みが消えているのにビックリ。

日常生活、エクササイズのやり方や注意点など教育した後に、もう一度ご自分で復唱していただきプログラムと注意点の確認。
非常に理解力のある方で完治に向けての期待大です(^-^)

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通常の頚椎伸展エクササイズでは沈滞ムードになってきたため、少し首の向きを変えてトライしてみましたが、右向きも左向きもより左手にはしびれが出やすくなります。
そこで、ここであせらずに頚椎伸展を出来る範囲で続けてみることにしました。

2週ほどして経過確認しましたところ、エクササイズのやり方は特に問題ないようです。
自覚的には胸椎の伸展エクササイズをした後の方が、上を向きやすくなる事を自覚しておられました。
エクササイズを継続したご本人の感想は、

・だいぶ上を向きやすくなった
・以前は首を回すと左上肢にしびれがあったが、首を回しても左手がしびれなくなった。
・少し首の向きをかえて伸展をしても、この前やったときのように左手がしびれなくなった。
と、明らかに改善している事が伺えます。

時に検査している時の手技を、自分のやるべきエクササイズだと勘違いされることが有ります。この、首の向きを変えての頚椎を進展するときに左手のしびれが消失したというのは一つのベースラインが改善したものと考えて良いように思いますが、この方法が自分のエクササイズとして適切なものであることを意味しているわけではない事をご説明します。

実際にチェックしてみると、頚椎の伸展は50°程度でまだ最終的に行けそうなレベルまで到達していません。
ここで焦って先に進めようとするとおそらく左手の症状が増悪することもあるため、今回の課題は顎をよりしっかりと引いてから頚椎の伸展を行うことを提案してみました。

これまで受けたどの治療よりもはっきりと改善していることを自覚されており、今後のさらなる症状の改善が期待できそうです。

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以前は和式便所でしゃがむだけでも左手がしびれていたのが、現在は自分でもびっくりするくらいに日常生活動作でしびれを覚えることが無くなったようです。
エクササイズができているかチェックしてみると、とてもよくポイントを理解しておられてエクササイズが適切にできていた事がうかがえます。
最近はPC作業中も、すぐに自分の姿勢を気にして姿勢を良くする癖がついたとのこと。
まだ頚椎の伸展が60°以上くらいにくるとわずかに左小指にピリピリ感を覚えるとのことですが、初診時には全く首を回せなかったのが、初診から約2ヶ月の現在、すでに首を自由に回せるようになっています。しっかりと顎を引くことを基本エクササイズとすることの重要性を再度ご説明し、引き続きセルフマネージメントしていただくようになりました。経過良好です。