何ヶ月も前から続く左肩の痛み、肩を動かすリハビリのたびに疼きます
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左肩の痛みで来院した70代女性のお話です。
10ヶ月くらい前から、これといったきっかけもなく左肩痛を覚えるようになりました。背中のファスナーを扱うときなど動きによって痛みが強いときには7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)くらいの痛みがあります。
痛くなって3ヶ月ほどした頃に近くの整形外科にかかり、それ以来治療に通っていて、以前より少しはよいものの、痛みが続いているためかかりつけの内科で相談したところ当院での診療をすすめられ来院しました。日常生活の動作ではあまり痛むことはないのですが、現在も通っているリハビリで肩を動かされた日は一日疼くので、リハビリを続けてよいのか少々疑問に思っているようです。左肩を動かさなければなんともない状態です。
左肩の可動域を確認すると、いずれの方向も軽度の制限と軽い痛みがありますが、中でも腰のあたりに手を回す動作で5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。
(左肩屈曲1点、伸展2点、外転2点、HBB: Hand Behind Back 5点)
タブレットで読書をする時間が長いので姿勢が悪いと意識しておられ、実際確認すると確かにやや猫背で悪い姿勢です。
そこで、まずは姿勢の整え方をご説明して姿勢を矯正すること1分。
もう一回手を上げてみましょうか
さっきより痛くないです…
(姿勢矯正保持 B 挙上、外転痛み軽減?)
良い印象なので、さらにしっかりと背骨を伸ばす動きを5回、問題ないことを確認しつつさらに5回。
手を挙げるのどうでしょう?
痛くないです!
手を後ろに回すの、さっきは5点でしたけど、今は?
これも痛くないです!
(SOC abolish B)
十分な良い反応がありましたので、宿題を決めて初回評価を終了しました。
それから3日後。
だいぶよいようです。
エクササイズは1日6セットくらいできたそうですから、優秀ですね。
まずは左肩の症状を確認すると、横から手を挙げる(外転)、前に手を挙げる(前方挙上)のはもう痛みはもうありません。
後ろに手を回す動作(HBB)で少し痛みますが、以前のような痛みはもうありません。
エクササイズをどのようにしているのかチェックしてみます。
息を止めてやってもいいんですか?
それほど長い時間ではないので、どちらでもやりやすい方でいいですよ
たまに呼吸をどうすればよいのかという質問をいただきますが、その方々に応じてあまりこだわりなくエクササイズがしやすくなるように指導することにしています。
まずは自分のやり方で5回。とても丁寧にできています。
手を後ろに回すのやってみましょうか
さっきよりもっと手が回るようになりましたけどいっぱいまで動かしたら少し痛いかな
体操の効果があるのでちゃんと出来ていると思うんですが、体操をやるときに何が大切なのかポイントがあったの覚えてます?
ん?なんでしたっけ?
[できるだけ]ってところにマーカーでマークしてたの覚えてます?
皆さんに宿題のやり方のプリントを差し上げていますが、その説明の際に必ずこの「できるだけ」という言葉をマーカーで囲って強調しています。それはほとんどの方が、この「できるだけ」のところで効果が伸び悩む場合が多いからです。とはいえこの方の場合はすでに効果が出ているので、やっておられるように息を止めてその形を続けるのもよいのですが、しっかりと動かすことのほうが大切だということを再度ご説明します。
この体操やってて首の後が突っ張るような感じで痛くなったんで、このままやり続けていると首が悪くなるんじゃないかとちょっと心配になったんで痛くない程度にやってました
今まで動かしてなかったところまで動かすと、一時的に突っ張り感とかありますが、その後痛みが残っていなければ大丈夫です
しっかりと最後まで動かすことを意識してしっかりと5回やってみます。
もう一回手を後ろに回してみましょうか
先ほどと同じところまで回しても痛くなかったようで、さらに後ろで右手で左手を引っ張ってもっと動かしてみても痛みがないことが確認できました。
(SOC エンドレンジを意識して B)
今は痛くないです!
やるべきことはわかりましたね!
ちゃんとできそうな方なので、卒業にしても良いでしょう。
卒業とお伝えすると、ちょっと驚かれました。これまで何ヶ月も整形外科に通っていて、通院した日に肩を動かされた日は逆に痛いということを繰り返していたわけですから、自分で体を動かすだけで良くなったのはかなり意外だったと思います。
もちろん肩が痛い時に、痛みを改善する目的で、あるいは可動域を改善する目的で肩を動かすリハビリをすることはあります。
しかし、肩の痛みが姿勢の悪さからきているときには、やはり姿勢を整えることを先にやるべきだと私は考えますが、皆様は今回の患者さんの症状の改善した経過からどうお考えになるでしょうか。