昨日段差で左足首を内側に捻りました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左足首を捻挫したという40代女性のお話です。
昨日荷物を持ったまま車に乗り込もうとして、足元の段差に気づかず左足首を強く内反するように捻ってしまい、その直後から左足首が痛くなり、氷で冷やしたりしたりしていました。
丸一日、ときおり氷で冷やしたりしながら様子をみていたのですが、歩く時に体重が載ると左足首にズーンとした痛みが走ります。
左足首をみてみると、あまり腫れた感じはなく、内出血などの所見もありません。
氷で冷やしていたせいなのか、ここを押したら痛いという場所もあまりはっきりしません。
体重を載せない状態で足くびを自分で動かしてもらうと多少痛いかなという程度で、歩くときのような強い痛みはありません。
骨折や靭帯損傷がある場合は腫脹ないし内出血が多少はあると思われますので、単純X線撮影はせずに、まずはマッケンジー法により評価をすることにしました。
立った状態で左足に体重を載せてもらうと6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが再現できます。
足関節の捻挫ですから評価はさすがに足関節……と言いたいところですが、捻った後からまる一日ほど続く強い痛みのわりに、腫れもなく、内出血のような明らかな軟部損傷を思わせる所見はありません。
マッケンジー法では四肢の症状であっても脊椎からスクリーニングすることはこれまでにもご紹介してきました。もちろん明らかに骨折などの外傷を疑う所見があるときには局所の評価を優先しますが、この方の場合はやはり脊椎から評価します。
右脚に体重を載せた状態で痛くないように立っていただき、腰椎の動きを確認しますが、特に制限はありません。
左足に響かないような立ち方で立ったままで腰を伸展する動かし方をご説明し、10回伸展してみます。
足踏みしてみましょうか
痛いですけど…さっきよりちょっといいかな
さっきは6点でしたが、今は何点くらい?
ちょっぴりいいかってくらいなので5点くらい
少しいいかもという程度ですが、左足のことが気になるようにも見えますので、今度は診察台にうつ伏せになっていただき、腰椎を伸展してみます。まずは一回、問題ない事を確認して、続けて10回やってみよかと思っていましたが、少々きつそうなので8回でストップしました。
ゆっくり立ち上がっていただきます。
もう一度、足踏みしてみましょうか
さっきよりだいぶいいです!足踏みできます!
さっきは5点でしたが、今は何点くらい?
最初の半分くらいにはなってるんで3点ですね、それと…
それと?
痛いところが、さっきは足くび全体だったのが、ここって感じにピンポイントになった感じです
マッケンジー法により評価していると、痛む場所が動くこともあれば、この方のような痛みの範囲が狭くなり痛い所がよりはっきりする現象も時に見られます。
さらに負荷を上げるやり方でうつ伏せの腰椎伸展を5回やってから歩いてもらいましたが、痛みは先程と同じ程度でそれ以上の改善はないようです。
日常的には適当に動き回るお仕事で特に座りっぱなしということはないようですが、実はこの前日にソファでだらりとして寝込んでしまったというエピソードを聞き出せました。
仕事が終わった夕方にもう一度症状を確認してみましたが、歩けているもののまだ痛みがあるとのことで、湿布と包帯固定のやり方などご説明し、腰椎の伸展エクササイズはその後もこまめに続けていただくことにしました。
そしてその翌日。
もうほとんど大丈夫です!
わずかばかり意識する程度で、もう痛みというほどの痛みはないようです。
捻挫した直後から痛くなった足関節の痛み。足首を捻った後から痛いんだから、それは捻挫でしょう…と考えて良いのでしょうか。
足をつけないほどの痛みでしたが、腰椎のエクササイズを実施していただき翌日にはほぼ完治しました。もちろん、一度使った湿布が効いたのかも知れません。
ある手足の外傷のようなイベントがあり、その後に痛くなったということがはっきりしていて、皮下出血も腫脹もないことから軽い外傷のように見えることがあります。そのような手首や足首などの痛みが、マッケンジー法により評価すると脊椎に関連した症状であったというお話をこれまでにも症例ファイルでご紹介してきました。
このような病態を私は「外傷モドキ」と呼んでいて、本物の外傷ではなく外傷に似たイベントをきっかけに症状が現れた脊椎関連の疾患の形だと考えています。
皆様はこの方の足関節の痛み、どうお考えになるでしょうか。
マッケンジー法・症例ノート【完全版】ペーパーバック版
マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、医学書のような難しい表現をできるだけ避け、雑誌やマンガ本を読む感覚でお気軽にマッケンジー法の世界を知っていただける本です。マッケンジー法を活用しているセラピストの皆さんにはもちろんのこと、一般の方にも読みやすいように各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を同じページで確認して読み進められるような内容になっています。
この本ではマッケンジー法を取り入れた私の診療の様子をそのままご紹介していて、何らかの症状があってマッケンジー法による診療を受けてみたいとお考えの方はもちろんのこと、マッケンジー法ではどんな考え方をするのかということを知りたいという医療関係者、マッケンジー法を勉強しようと考えているセラピストやすでにマッケンジー法による診療を実践しているセラピストの皆様まで、私の実践しているマッケンジー法の考え方に触れられる今までになかったタイプの一冊です。