20年来の腰痛、両膝痛
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は20年来の腰痛と膝痛があるという70代女性のお話です。
20年来と聞くととても長い期間の痛みのようですが、いつも痛いわけではなく、たとえば30分ほど歩くと痛くなります。痛いときは腰5点、膝7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあるのですが、診察時点では痛みはありません。他、朝起きたときなど膝の痛みを意識するようです。
ときに強い痛みがあるものの、趣味のガーデニングは一日に1時間ほど、卓球に週一回、他にヨガ、楽器の二胡の演奏などアクティブな方だとわかります。
腰痛については20代で腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けたことがあり、膝については40代で両膝の手術を受けたそうですが、詳細はわかりません。
腰椎の単純X線写真では年齢相応の変性に加えて、変形(L4/5後弯)、軽度のすべり(L3/4)があります。
診察開始時点では症状はないようで、姿勢の矯正でも特に変化はありません。
腰椎の可動域検査では伸展で左殿部の痛みがありますが、もどると痛みは残っていません。
腰を横に動かすときに、左鼠径部の痛みが少しあるようです。
座っていただき、腰をしっかりと曲げる動きを繰り返して反応を確認してみます。
まずは一回、とくに症状がないことを確認して続けて10回。
動かしているときに痛みはないようですが、終わって腰を横に動かす動きの左鼠径部痛はあまり変わりません。
(FISit 10回 NE)
そこで今度は診察台の上に仰向けに寝ていただき、膝を抱えて丸くなっていただき、そのまましばらく続けてみます。
大丈夫ですか?
なんか気持ちいいです
1分ほどしっかりと曲げていただいた後、もう一度立っていただき腰を横に動かしてみます。
痛みはどうです?
今は…無いです
横に動かす動きもより深くできるようになっていることがわかります。
(FIL持続 B)
初診時点では痛みは無いとのことでしたが、ベースラインの改善はみられましたので、腰椎の屈曲方向のエクササイズを宿題にして初回評価を終了しました。評価の段階では座位での屈曲はあまりはっきりした反応はなかったのですが、寝てやるエクササイズだけでは頻度が少なくなることも予想されましたので、座ってやるエクササイズも追加することにしました。
3日後、1回目のフォローアップのときに、すでに症状が軽くなったと言われます。
エクササイズはいずれも10セット程度とかなり頑張っておられる事がわかりました。
エクササイズのやり方をチェックしてみましたが、いずれもポイントをおさえて上手にできています。
さらに10日後に途中経過を確認すると、だいぶよいようです。
やることがはっきりとわかってきて嬉しいです!
これまでどうして良いか分からなかった時期が長かったことを振り返り嬉しそうに話されます。
初診から2ヶ月ほどしたころ。
もう痛みを意識しなくなりました。
50年来の腰痛がこの2ヶ月位でこんなによくなって嘘のようです!
問診のときには20年来と伺っていました。ちょっと大げさな感じがしないでもないですが、ご本人としては50年前に腰椎椎間板ヘルニアの手術をした頃から多少の腰痛には常につきまとわれていたようです。膝の症状は、初回評価の時点から一度も再現することが出来ませんでしたが、今回の宿題にしたエクササイズを開始したあとに良くなったところをみると、腰椎への介入で改善したというのは間違いなさそうです。
おそらくこの方は今後もエクササイズを続けていただけそうで、再発の予防の観点からも問題なさそうなので、卒業としました。
もともとアクティブに身体を動かすことがお好きな方は、体を動かすことに抵抗がありませんからエクササイズの課題をうまくこなしていかれることが多いように思います。
マッケンジー法は評価・治療法ですから評価についてはすべての人を同様に評価します。評価の結果、病態がマッケンジー法の分類でDerangementと呼ばれる比較的早期に治りやすいタイプであっても、治療がうまくいくのかどうかは人それぞれ。
評価で姿勢・エクササイズの課題をこなせるかどうかが一つの鍵になっていることは間違いないようです。