ぎっくり腰は4年ぶりくらいですが、今回はあまりきっかけがわかりません
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回はぎっくり腰になったあとの痛みが続いているという70代男性のお話です。
70代と言っても活動量は様々ですが、この方は普段から家庭菜園の畑仕事はもちろんのこと、薪を取りに行く作業も行けるときには行くというアクティブな70代です。
過去に4回ほどぎっくり腰をしたことがあり、その都度よくなっていました。今回は4年ぶりくらいにまたぎっくり腰になったのですが、今回は腰の負担がそれほどあったようなイベントが思い当たりません。
最初はかなり痛かったのですが、その後、そろりそろりと動いているうちにだんだんと痛みは軽くなってきました。しかし、洗顔など前かがみ動作では未だに痛みがあり、また痛みが強くなりそうで、あまり思うように腰を曲げる作業もできません。
じっとしているときには症状はないようで、姿勢を矯正して保持してみますが、あまりこれといった変化はありません。
立っていただき、腰の動きを確認します。
屈曲、伸展とも3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)程度の痛みがあります。
前かがみができない、薪を取りに行く重労働、前かがみの多い農作業などこなす方の腰痛でもあり、まずは腰の伸展をしてみることにします。
お元気な方ですので、立ったままでまずは1回、問題ない事を確認して続けて5回ほどしたところ、
だんだん痛くなってきました…
とりあえず中止して、可動域のチェックをしてみます。
さっきやったみたいに前かがみを出来る範囲でやってみてもらえます?
…痛いです!
最初にチェックしたときより前かがみが出来なくなっています。
今度はうつ伏せで腰椎の伸展に切り替えてみます。やっていると少し痛みが強くなってきましたので、5回でやめてもう一度可動域チェックしてみます。
先程よりさらに前屈できなくなっています。
そこで今度は椅子に座っていただき、しっかりと腰を曲げるやりかたをまずは一回。
痛みは大丈夫ですか?
最初に可動域を確認するときに立った状態で屈曲(前屈)したときには痛みがあったため、念のため確認します。
これはあまり痛くないですね
続けてみます。続けながら痛みが無いことを確認し、トータル10回、座った状態での腰椎屈曲をしてから、もう一度立っていただきます。
前かがみやってみましょうか
あっ、痛くないです!
何点くらい?
今は0点です!
(FISit 10回 B)
先程はほとんど前屈できなくなっていましたが、今はもう少しで指先が床に届くくらいに前屈できるようになっています。
念のため、伸展も悪くなっていないのか確認します。
これもさっきより痛くないです
腰椎の伸展の可動域も改善し、痛みも軽減していることがわかりました。
腰を折って作業することの多い方のぎっくり腰。さらに腰を曲げていいの?と思われた方もいらっしゃるでしょう。
たしかにそのような方では、どちらかというと腰椎を伸展方向に動かすことでよくなることが多いのは事実です。
実際、マッケンジー法の腰椎伸展のエクササイズからヒントを得たと言われる「これだけ体操」という画一的な動きを推奨する方法はネット上でも広く知られています。もちろん、そのようなやり方で幸い快方に向かう方もいらっしゃるでしょう。しかし、マッケンジー法では「このような症状の人にはこの体操をすると良いことが多いからこうする」という考え方をしません。
安全最優先に症状の変化を細かくモニタリングしつつ、患者さんの症状がある特定の運動負荷に対してどのように変化したかを詳細に確認し、その反応をもとに次の進むべき方向を決めていきます。
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マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、医学書のような難しい表現をできるだけ避け、雑誌やマンガ本を読む感覚でお気軽にマッケンジー法の世界を知っていただける本です。マッケンジー法を活用しているセラピストの皆さんにはもちろんのこと、一般の方にも読みやすいように各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を同じページで確認して読み進められるような内容になっています。
この本ではマッケンジー法を取り入れた私の診療の様子をそのままご紹介していて、一般の方から医療関係者、セラピストの方まで広くマッケンジー法に触れられる今までになかったタイプの一冊です。
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