case_242 左下肢痛

脊柱管狭窄症の診断で手術を受けることが決まっています

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左坐骨神経痛の症状で手術予定が決まっているという80代男性のお話です。

もともとグランドゴルフを楽しむようなアクティブな方です。数ヶ月前から左下肢の痛みを覚えるようになり、近くの整形外科にかかってMRIで腰部脊柱管狭窄症の診断を受けました。痛み止めを処方されていましたが症状は変わらず、近日中に手術予定となっています。画像の所見ではたしかに比較的強い狭窄部位があるものの、とくに偏りの強い狭搾というわけでもなく、執刀予定の医師も若干そこに疑問を持ったようで、手術前の確認に神経根ブロックしてみて部位を確認したいとのことで数日前にブロック注射実施されました。その結果、その直後はかなり歩きやすくなり、麻酔が切れたあとも左下腿から足先までのピリピリした痛みはなくなったのですが、今度は左臀部から膝くらいまでの痛みが強くなったようです。そのブロックの効果を見て、術前にもう一度ブロック治療をする予定になっていたのですが、マッケンジー法の話を聞いて興味をもち来院されました。

もともとリウマチなどの基礎疾患はありますが、単純X線写真で確認すると骨はどちらかというと脊柱管狭窄症の患者に見られがちな造骨性の変化(骨が作られ変形する変化)が目立ちます。体を動かすこと自体には問題ないようです。

座位では左臀部を少し浮かせたような座り方で7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)くらいの痛みがあり、立っていただきお話を続けます。立った状態でも5点はあるようです。

腰椎の可動域を見ますが、いずれの方向も痛そうで、まずは診察台の上にうつ伏せに。

佛坂
佛坂

今どうです?

B男さん
B男さん

痛いですね…

そのままの状態を続けていると

B男さん
B男さん

だんだん足の方まで痛くなってきました

もう一度立ち上がっていただき、じっと立っていると、さきほどと同じ程度には落ち着きました。

(伏臥位持続 I-NW)

再度立位での可動域を確認します。横方向も重度制限…と思いきや、

B男さん
B男さん

これは…なんともないですね

佛坂
佛坂

全然?

B男さん
B男さん

痛くないです

(立位RSG D)

先程は痛がっておられたのもあり、しっかりと横に動かしていなかったかもしれないのが反省点ではありますが、少なくとも今回は横に動かすときの痛みはなくなりました。しばらくその状態を保持してみますが、症状は消えたままです。

佛坂
佛坂

とりあえず今の腰を横にずらした状態で歩いてみましょうか

B男さん
B男さん

歩けます!

一緒にいらしたご家族も普通に歩けている姿に驚いておられます。

良い反応が得られましたので、今度は同じ方向の動きをゆっくりと反応を確認しながら反復していきます。
10回ほどゆっくりと、徐々に深く動かしてからお伺いします。

佛坂
佛坂

真っすぐ立ってみましょうか

B男さん
B男さん

痛くないです

佛坂
佛坂

足踏みしてみましょう

B男さん
B男さん

なんとも無いです…走れそう

足踏みしてそう答えられました。

佛坂
佛坂

ベッドに横になる動きをやってみましょうか

先程はうつ伏せになるときにやっとというなだれ込むようなうつ伏せでしたが、今回はさっとよこになって、またスクッと立ち上がって

B男さん
B男さん

だいじょうぶです…魔法みたいですね!

佛坂
佛坂

そう思いますよね、でも、こういうことがあるということを知っているかどうか、ただそれだけなんです

(立位RSG反復 abolish B)

初期のエクササイズとしては横方向のエクササイズを宿題として初回評価を終了しました。

このままエクササイズを続けて症状の改善を目指せるかと思われたのですが……。
その後、エクササイズで改善するものの、ときに痛みが走る状態が続いたようで、結局、ご本人が手術を選択されました。

エクササイズで改善の兆候が見られていたので、少々もったいない気がしますね。でも、大切なのは可能性のある治療法をご本人が納得行くまで試すことができたことだと思うのです。「エクササイズで症状が一時的にとれる」ということがわかり、手術までの間は鎮痛剤のかわりにエクササイズをして痛みを凌ぐことができましたから、最終的には手術を選択したものの、手術が終わったあと、ご本人がマッケンジー法による評価を受けてよかったと言っていたとご家族からお知らせいただきました。

この患者さんはマッケンジー法による評価と治療を続けることを選ばず手術を選択されましたが、私はそれが間違っているとは思いません。
人それぞれにご自身の治療に対する考えも違えば、治療にかけられる時間も違いますし、痛みの感じ方、それに対する心身の反応も全く異なります。大切なのは患者さんご自身が最終的な治療を自分の意志で選んだというところだと思いますが、皆様はどうお考えになるでしょうか。


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