整形外科で五十肩と診断されました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肩の痛みで来院された40代女性のお話です。
パソコンを使ったデスクワークのお仕事で座る時間が長い方です。4ヶ月ほど前、夜中に急に右肩が痛くて目が覚め、整形外科にかかって五十肩と診断され痛み止めを処方されました。痛みは徐々に軽くはなったようですが、少し痛い状態が続いていたものの我慢できる程度だったので放置していました。2週間ほど前に再び痛みが強くなり、夜中にも痛くて目覚めるほどに。そのことをインスタで投稿したところ、フォロワーさんから私のことを教えてもらい来院しました。
いまこうやってじっと座っている時の痛み具合はいかがです？
肩から肘くらいまでズーンとしてます
何点くらい？
4点くらいですかね…
どういうときに痛みが軽くなるかお伺いしたのですが、じっとしていてもズーンとした4点（考えうる最大の痛みが10点満点として）の痛みが一日中あるようです。前方から手を上げてみると、わずかに左手より上がりにくいくらいで可動域はよく保たれていますが、痛みは4点のままです。不意に右手を後ろに回してものを取ろうとしたときなどにズキンとする痛みがきて、しばらくジーンとするようですが、ゆっくりと手を後ろに回してもやはり7点の痛みは再現できます。
（HBB 7点）
やや猫背の姿勢なので、まずは姿勢を矯正して1分ほど保持してから伺います。
さっきあったズーンとする痛みは今はどうです？
ん？…今はないかも…
先程まで感じていたズーンとした右肩から上腕の痛みは消えたようです。
脊椎に関連した痛みである可能性が濃厚になりましたね。
しかし、前方から手を挙げる動作は相変わらず4点、先程と同じ用に後ろに手を回す動作は少し回りやすいようにも見えますが、痛みは7点と変わりません。
座ったままでよりしっかりと顎を引く動かし方をご説明し、5回実施した後にお伺いします。
もう一回手を上げてみましょうか
ちょっと驚いたような表情で
痛くないです！
（SOC 前方挙上痛 abolish B）
手を後ろに回す動作は先程より可動域が増えているようですが、自覚的にはあまりかわりません。
もう少し頑張れそうなので、さらにしっかりと頚椎を伸展する動かし方をご説明してからまずは1回。
特に問題がないことを確認してトータル5回しっかりと伸展してみます。
もう一回手を後ろに回すのやってみましょう
またまた驚いたような表情で
ほんの少し痛いかなというくらいでほとんど痛くないです！
（RET＋EXT B）
しっかりとエクササイズを続けることの大切さをご説明して初回評価を終了しました。
受診してよかったです！
今回のように劇的に改善する人ばかりではないことはこれまでにもお話してきましたが、一見すると五十肩とも思える症状で、人から「五十肩」と言われた、あるいは実際に整形外科でそのように診断されていても頚椎（または胸椎）に関連した症状であることは稀ではありません。
ブログでは一話読み切りでのお話を選ぶ都合上、比較的シンプルにその方にあった体の動かし方が見いだせた症例を中心に選んでいます。このような方々は速いペースで、場合によってはその場で症状が改善してしまうのですが、自らの成功体験が大きいため、他の人にも紹介したくなる人も多くなります。今回のようなその場で劇的に良くなるタイプの患者さんには、正直に全ての患者さんが同じように良くなるわけではないので、くれぐれも誇大広告の無いようにとお願いしています。
マッケンジー法はすべての症状が消えるような魔法ではありません。
マッケンジー法で用いられる病態分類では、全症例のおよそ7割の方がDerangement（ディレンジメント）と呼ばれる比較的速いペースで症状が改善するカテゴリーに分類されます。しかし、マッケンジー法は「五十肩であればこのやり方」という決まった方法でアプローチするのではなく、個別に評価して、それぞれに合う治療法を見出していく、完全カスタムメイドの医療システムなのです。
※マッケンジー法についてのよくある誤解については国際マッケンジー協会日本支部のホームページに解説してありますので、そちらをご覧くださいませ。
マッケンジー法®に対する誤解（国際マッケンジー協会日本支部へのリンク）
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