case_237 左膝痛

数年前から時々左膝が痛くなります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝の痛みの相談で来院された70代女性のお話です。

70代後半の方なのですが、現役で清掃の仕事をしておられるとてもお元気な方です。通常は定年まででお仕事は終わりになる職場なのですが、どうしても仕事を続けてくれと頼まれて続けているそうで、おそらくかなりの働き手なのでしょう。日本人は高齢になっても働かないと生活できないのかというネガティブな捉え方をする人も多いと思います。しかし、私も仕事柄これまで様々な方を見てきましたが、生涯現役の方は皆さんお元気です。お元気だから現役で働けるということももちろんありますが、体を動かし続けることの大切さを常々実感しています。特に経験を積んだ腕のいい働ける人が本人はまだ働きたくとも年齢を理由に退職せざるを得ないってもったいないと常々思っていますから、この方のお話はとてもうれしく感じます。

マッケンジー法で評価を行うときに、問題となっている症状のせいで何が出来ないのか、もし症状が良くなったら何がしたいのか、などと伺うのですが、この方は迷わず「もっと働きたいです!」とお答えになりました。

さて、いつの日からかはっきり覚えていませんが、少なくとも数年前から時々左膝が痛くなりました。
一年ほど前から痛みの程度がひどくなり、ひどいときはうずくまるほどになったそうです。

朝のうちは比較的よいのですが、仕事をしているとだんだんと悪くなり、特に重いものを持って階段の上り下りなどしたあとに悪くなることに気づいています。

3ヶ月ほど前に他の疾患でかかりつけの内科の先生に相談したところ、とりあえず痛み止めをとリリカ75mg、ロキソプロフェン60mgをそれぞれ1回1錠で朝夕に処方されました。それからずっと同じ薬を飲み続けているのに全く効いた感じがありませんが、他に治療がなかったようで内服を続けてきました。

診察は午後だったのですが、診察当日は仕事がお休みだったので、左膝はそこまで痛くないようです。

立ち上がりで少し違和感、足踏みで1点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みです。

この症状をベースラインとして評価をします。

座っている姿勢はさほど悪くはないのですが、しっかりと矯正した状態をしばらく続けてからもう一度同じように立っていただき痛みを確認します。

佛坂
佛坂

いま、左膝の感じはどうでした?

A子さん
A子さん

今はそんな感じませんでした

佛坂
佛坂

足踏みはどうでしょうね?

A子さん
A子さん

あっ、違います

佛坂
佛坂

いい?悪い?

A子さん
A子さん

さっきより軽いです

佛坂
佛坂

さっき1点だったんですけど、今は何点?

A子さん
A子さん

半分くらいかな…

姿勢をかえただけで左膝の症状が変わったという感覚、今日は症状が軽くて痛みとは言えない程度の状態からスタートしていますから、まだなんとも言えませんが、少なくとも悪くはありません。

腰椎の可動域を確認すると、普段から体をしっかり使うお仕事をしているだけあって年齢の割に柔軟性は保たれています。

聴取された情報と姿勢矯正に対する反応を参考に、腰椎の伸展方向に負荷をかけてみて反応を確認してみることにしました。

高齢ではありますが、比較的お元気で、お仕事中も実施しやすいエクササイズであることも考え立位で5回しっかりと伸展して足踏みしてもらいます。

佛坂
佛坂

痛み具合どうです?

A子さん
A子さん

なんとも無いですね!

今日は非常に軽い症状でしたが、変化の実感はかなりはっきりと感じられたようです。

今後のエクササイズ宿題についての説明などしばらく座ったままお話してから立ち上がるとき、

A子さん
A子さん

さっきまで立ち上がるとき気になってたのに、さっと立てました

実施したのは腰椎のエクササイズのみでその場で改善する膝の痛みだったのですから、神経は正常だったのでしょう。神経障害性疼痛に使われるプレガバリンが効かなかったのもうなづけます。

急に中止すると離脱症状が問題になることがあるので、減量する方法などご説明して1週間ほどで完全にやめていただくことにしました。もちろんエクササイズでよくなるような痛みですから、ロキソニンはすぐにやめても問題なさそうです。

A子さん
A子さん

以前は膝の注射にずっと通っていたんですが、一度すごく痛いことがあってそれ以来行かなくなっていたんです

痛い注射でも、必要ならばそれで良いとは思いますが、この方の場合は膝の注射では良くならない腰椎に関連した症状のようですから、痛い注射も今思えば注射を止める良いきっかけになったとも思います。

膝が痛いとき、膝の治療を続けているけどなかなか良くならない、痛み止めも注射も効かない…そんなとき、その膝の痛みはひょっとすると腰に関連した痛みかもしれないということをお伝えできれば幸いです。

※【参考】プレガバリンの添付文書には、同剤の急激な投与中止により、不眠、悪心、頭痛、下痢、不安及 び多汗症等の離脱症状があらわれることがあるので、投与を中止 する場合には、少なくとも1週間以上かけて徐々に減量することと書かれています。


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