小石を踏みつけてから続くかかとの痛み、踵骨棘があるようです
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右踵(かかと)の痛みで来院された50代女性のお話です。
2ヶ月ほど前のこと、サンダルで歩いていて小石の上を右踵で踏みつけて右足首をひねりました。その時に踵に強く小石の当たるような感覚があったようで、それから以降、右踵の内側の痛みが続いています。
最近症状が強くなったため、近くの整形外科にかかったところ、単純X線写真で踵の骨が少し変形していると説明を受けました。リハビリで足首から踵を中心にマッサージなどしてもらった後は少し良いようなのですが、またすぐに悪くなることの繰り返しのようです。
足のテーピングを教えてもらってテーピングをしてみると、いいときもあるのですが、テーピングのやり方が上手く行かないときもあるのでしょうか、あまり効果がないと感じることもあります。
朝起きたときの歩きはじめに痛みが強く、歩いていると少し良いようにも感じますが、そのまま動き回っているとやはり痛みが強くなります。もともと頭痛でカロナールを飲むことがあるのですが、手持ちのカロナールを内服すると右踵の痛みも軽くなるように感じています。
今日の歩行時の痛みは8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)で、座っていても4点の痛みがあります。
単純X線写真を確認すると、右踵には踵骨棘(しょうこつきょく)と呼ばれる変形があります。
腰も痛いようで、腰の画像を確認すると、L4/5のごく軽いすべり症があるのがわかります。
以前、股関節の変形も指摘されたことがあると言われますが、腰椎の正面像で確認できる両股関節の状態ではごく軽度の関節裂隙(関節のすきま)の狭小化がある程度です。
さて、こうしてお話を伺った後に、今現在の座っている状態での右踵の痛みは3点であることを確認しました。
まずは姿勢を矯正して1分ほど保持してから踵の痛みがどうなのか伺います。
今はあまりないかも…
先程は座っていても3点くらいの疼く感じがあったのですが、今はさほど感じません。
立っていただき、腰椎の可動域を確認します。
伸展(そらす)と側方の動きが中等度に制限されていて腰痛があります。
(EXT、両側 SG 中等度制限 P腰痛)
再度、足踏みしていただき現在の症状をもう一度確認すると、足踏みで今は右踵の同じ場所に3点の痛みがあります。
先程の姿勢矯正に対する反応、可動域検査の結果など参考にして、立ったままで数回腰を伸展してみますが、やはり腰の痛みがあるようです。
(EIS P腰痛-NW 中止)
戻ったら腰痛が強く残っているわけではないのでこのまま注意して続けるのもありなのですが、より負荷の少ないうつ伏せでの伸展に切り替えてみます。
うつ伏せになって伺いますが、この状態では全くなんともありません。
そこで、肘をついて少し上半身をおこしてみますが、これも大丈夫です。
この状態を少し続けた後に両手をついて上半身を持ち上げようとすると、これは少し腰が痛いようです。
そこで、両肘をついた状態をしばらくキープしてから、もう一度立ち上がって足踏みしてもらいます。
あれっ、今は痛くないかも…
(puppy持続 B)
もう一度、うつ伏せで肘をついた状態をしばらくキープしてから、立っていただきます。
さっきと同じように足踏みしてみましょうか
全然痛くないです!…えっ、なんで…
本当に不思議ですよね。
2ヶ月前に小石を踏みつけてから発症した踵の痛みが、踵じゃなくて腰のエクササイズで改善するなんて…。
実はこれまでにも同様の足底腱膜炎のような症状でおみえになり、マッケンジー法により評価した結果、腰椎のエクササイズで症状が改善したというお話を何度か取り上げてきました。
そして、今回と同様の打撲や捻挫などの一見すると軽微な外傷の後に痛みが長引くお話も、マッケンジー法・症例ファイルで「外傷モドキ」としてご紹介してきましたが、覚えていた方もいらっしゃるでしょうか。
打撲や捻挫で痛くなったと言っても程度は様々です。この方も、小石をサンダルで踏みつけて足を捻った後に、踵に内出血したり、足が腫れたりといったことはなかったようで、その程度は軽かったのだろうと思われます。
外傷の程度は軽度にも関わらず、ダラダラと痛みが続く…。
このような時、たとえ手足の痛みであっても脊椎に関連した症状である可能性があることをこのお話を通じてお伝えできれば幸いです。