背中の痛みにプレガバリン?
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は背部痛のご相談に見えた60代女性のお話です。
現役で清掃の仕事をしているお元気な方です。趣味という趣味はないのですが、じっとしているより動いていることのほうが多いようで、テレビも気に入ったものがなかったら消すタイプでだらだらと座ってテレビを見るような習慣はなさそうです。
3週間ほど前のこと、職場で2kgの米をもらってリュックサックに入れて背負って持ち帰ってからか、その頃から腰の上のほうが痛くなりました。朝起きた時など起き上がるのがつらい状態で、中腰で清掃作業して起き上がるときなど7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。歩いている時はなんともないようで、じっと座っている時も痛くありません。
以前から膝の治療でかかっているという整形外科医院で痛み止めをもらっているとのことでしたので、お薬手帳を確認したところ、
プレガバリン(75+25)☓2 朝夕食後
ロキソニン+イサロン 各1T 夕食後
と書かれてあります。
最初はプレガバリンだけだったそうですが、プレガバリンは量を増やして飲んでも効いた感じがなかったので、そう訴えたところ、夕食後のロキソニンが追加になったそうです。
単純X線写真の所見では多少の骨粗鬆傾向がありますが、動かして問題になりそうな程ではありません。
やや猫背の姿勢ですから、まずは姿勢を矯正して1分ほど保持してみます。
堪えますね…
いつも痛いところ?
ですね
戻ったら元通り、痛みは残りません。
(姿勢矯正保持 P-NW)
腰椎の動きを確認します。
屈曲(前屈)は深くできると手を床につけて見せられたのですが、起き上がる時に途中7点の痛みがズキンと響くところがありました。起き上がった後は痛みは残っていません。
伸展(腰を反らす)はなんともないようです。横に動かす動きでも痛みは誘発されませんが、伸展、横の動きは中等度に制限されているのがわかります。
生活状況と可動域の検査結果をふまえて、まずはしっかりと伸展してみることにします。
お元気な方ですので、立ったままでゆっくりと様子を伺いながら、しっかりと10回伸展してみます。
もう一回さっきの痛い動きしてみましょうか
おそるおそる立ち上がります。
いまは痛くなかったです
(EIS 10回 B)
いい印象ですから、さらに10回伸展を追加してからもう一度座ってもらい立ち上がってもらいます。
今度はさきほどよりスムーズに、
痛くないです!
さらに、椅子の背もたれを利用した伸展を5回してみましたが、特に問題ないようです。
こっちのほうが安定してしやすいです
この状態で痛み止めが必要とは思えませんので、痛み止めのやめ方などご説明し、姿勢と腰椎の伸展エクササイズを宿題にして初回評価を終了しました。
今回ご紹介した女性が処方されていたプレガバリン、通常の使用量より多い処方量でしたが、本人は全く効いていないと感じていたようです。
以前から何度かご紹介してきた神経障害性疼痛の治療薬であるリリカⓇ(一般名:プレガバリン)とタリージェⓇ(一般名:ミロガバリンベシル酸塩)。これらは開発段階で帯状疱疹後神経痛と糖尿病性ニューロパシーの臨床試験で効果を示していますが、添付文書に記載されている適応は「神経障害性疼痛」と、かなり包括的な病名になったため、これらの薬剤が「痛み」を伴う様々な疾患に対して使用されるようになりました。これらのお薬は適正に使用されればとても効果の高いお薬でこれにより救われる患者さんが多いのも事実です。
しかし、適応がない痛みに対して使用されると、痛みが改善しないばかりか、中毒患者を作りかねない薬剤です。
この問題はすでに海外ではかなり前から指摘されていて、乱用による自殺のリスクも高めるなど中毒患者をつくっていることも報告されており、不適性使用に対する注意喚起の報告も出されています。
もし腰が痛くて病院にかかって、これらのお薬が処方された時、それが本当に適正な処方なのかを医療の専門的知識がない人が判断するのは難しいでしょう。
そんなとき、他の病院にかかって意見を聞いてみることをおすすめいたします。
【参考文献】