左肩甲骨から左上腕にかけての痛みが続いています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左腕の痛みがある70代男性のお話です。
2ヶ月ほど前のこと、ふと左肩甲骨あたりが痛いことに気づき、整形外科にかかったところ、MRIを撮影する事になったのですが、新型コロナに感染してしまい、MRI検査が先延ばしになっていました。その後、無事に新型コロナ感染症は治癒したのですが、今度は熱中症などで体調を崩してMRI検査を受けない状態が続いていたようです。以前、整形外科で痛み止めをもらったのですが、痛み止めは全く効かなかったようです。
上肢の症状ですから、マッケンジー法ではまず頚椎の評価を行います。
もともと少し猫背で、お仕事も下向きのことが多いようです。単純X線写真では変性と生理的前弯が減弱しているのがわかります。
姿勢を矯正すると痛みが増強しますが、楽な姿勢にもどると痛みはもとと同じレベルにもどります。
(姿勢矯正保持 I-NW)
頚椎の可動域は伸展方向が痛みを伴い重度に制限され、また回旋・側屈も左右とも痛みが強く重度に制限されています。
唯一、顎を少し前に出す動きのときに少しだけ痛みが軽減するのですが、もどすとまた痛みが元のレベルに戻ります。
(PRO D-NB)
猫背だから良い姿勢にしたいのですが、現時点では姿勢を矯正しようとすると痛みが明らかに増強されますので、まずはどのようにすると症状が少しでも軽減されるのか確認していきます。
座った状態での負荷は負担が大きそうだと思われましたので、仰臥位になっていただき評価を続けます。
まずは枕をいれずにフラットな状態で頭を診察台につけていただくと、それだけでかなり痛みが強くなるようです。
(RET 仰臥位 I-NW)
そこで、今度は枕を入れて楽にしていただき、痛みの変化を確認します。
「少しいいみたいですね」
枕の高さを調整し、痛みが軽減するポジションがみつかりましたらから、この枕入れたまま仰向けに寝た状態をしばらく続けてみます。
痛みはどうです?
今はなんともないです
しびれも痛みも?
そうですね
痛み止めより効いたでしょ?
ですね
起き上がって、もう一度座っていただき、首の動きを確認します。
だいぶ動かしやすいです!
先程難しかった上向きと左右の振り向きなど、まだ十分ではないのですが改善しているのがわかります。
(仰臥位 PRO持続 B)
それでその後どうするのか…。
もちろんずっと寝たままで過ごすわけには行きませんね。
痛みが強いときにはまずは痛みがどうしたら軽減するのかを確認し、痛みが軽くなったあとにまた別の動きを確認する作業を続けますが、お話が長くなりますので、今回はこの「ある高さの枕を入れて仰向けに寝た状態を続けたところ痛みと可動域が改善した」というところで区切らせていただきます。
マッケンジー法・症例ファイルでご紹介しているお話では様々な症状に対して猫背を矯正することで症状が改善する症例が多いことに気づかれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
マッケンジー法ではおおむね基本となる良い姿勢に近づけるように姿勢を整えることが多いのは事実ですが、よく書店で目にするようなエクササイズ教本にみられるように一律に良い姿勢を指導をしているわけではありません。
今回はむしろ座った状態で頭を前に出した、どちらかというと悪い姿勢のときに症状が軽減することが確認できました。
マッケンジー法ではある姿勢・運動負荷に対して、その負荷の前後でどのように症状が違うのかを細かく確認していきます。そこで見いだされた症状の変化、反応をもとに次にどう進むべきなのかを決めていく、完全カスタム医療とも言える方法なのです。