一ヶ月ほど前に右母指の付け根あたりが痛くなり右母指CM関節症と診断されました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右親指の付け根あたりが痛くなってなかなか治らないという50代女性のお話です。
実はこの方、もう2年ほど前に右手の痛みで来院したことがあります。右中指のひっかかりもあり、ばね指の診断でしたが、頚椎のエクササイズに対する反応がよく、結局頚椎のエクササイズのみで症状は改善してしまった方です。
一ヶ月ほど前に、ふと右母指の付け根あたりの痛みを意識しました。以後、物が当たったりするときに痛みがあり、お近くの整形外科にかかって単純X線写真を撮影してもらい、右母指の痛いところの骨が変形している母指CM関節症と言われて湿布とCM関節を固定するサポーターを処方されました。
湿布はあまり効いた感じがなく、サポーターはむしろ痛みが悪くなる感じがするようです。
単純X線写真を確認しましたが、確かに右母指CM関節症があります。僅かに亜脱臼して小さな骨棘がみられますが、関節裂隙はよく保たれています。
物を持つ動作などで痛みがあると言われるので確認してみますが、今は物を持っても痛みはありません。
右母指CM関節のあたりを掌側から押すと5点の痛みはあるので、この痛みをベースラインにしました。
まずは姿勢をしっかりと整えて1分。もう一度、同じところを押してもらいますが、あまり変化はありません。
以前やっていたエクササイズ覚えてます?
こう……だったかな……
ちょっと自信なさげなので、頚椎のしっかりと負荷をかける伸展のやり方をもう一度ご説明し、5回やってみます。
もう一回、さっきの痛いところ確認してもらえます?
あっ、痛くない!
痛みは消えてしまいました。
サポーターをもらったんですが、サポーターつけたほうがいいんですか?
私だったら、つけませんよ。だって今首の運動をして良くなったんですから
たしかに軽度のCM関節症はありましたが、頚椎のエクササイズでその場で消えてしまうような痛みのためにサポーターを付ける理由はないですね。
ものをできるだけ抱えないようにと言われたんですが、やめたほうがいいんですか?
私だったら気にせずにやりたいことやりますよ。だって今首の体操をして良くなったってことは、手の変形は関係無さそうですからね
一般には単純X線検査で痛みのある関節に変形があると、その関節に負担をかけないようにという指導がなされることが多いと思います。関節の痛みがあり整形外科にかかったことのある方は似たようなことを言われたことがあるかもしれません。
しかし、今回、頚椎の伸展エクササイズで消えてしまったような手の痛みについて負担をかけないようにする理由があるのでしょうか。
でも、痛くなったら?
今回の評価の結果からすると、私なら頚椎のエクササイズをしっかりと出来ているかをチェックすると思います。
今回のお話から単純X線写真で確認される変形などの異常が必ずしもその部位の痛みの原因ではないことがあるということをお伝えできれば幸いです。