両手のしびれの方、その後の経過はいかがでしょうか
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回はcase_10 両手のしびれとむくみの患者さんのその後のフォローについてのお話です。
毎回のように様々な症状が初回から数回の評価で劇的に良くなる症例ばかり提示していると、あやしく思われる方もいらっしゃるでしょう。
お察しの通りです。マッケンジー法は魔法ではありませんから、スピーディに症状改善のある方ばかりではありません。
これまで提示してきた症例のほとんどはマッケンジー法の分類法ではDerangementと呼ばれている分類に入る方々です。この分類の方々は適切な方向のエクササイズを行うことによって比較的短期間に症状の改善をみることができます。
しかし、この分類に入っている人であってもそう上手くいく人ばかりではありません。
今回はそういった現実的な問題も含めてフォローアップのご紹介をします。
case_10の記事を読んでおられない方のために簡単にご紹介しますと、両手根管症候群様の症状があったのですが、頚椎のエクササイズにより初診時に劇的に症状が良くなった方です。詳しくはリンクの症例ファイルをご覧ください。
日常の注意点が守られているか、エクササイズが実施できているかを確認する日がやってきました。
診察室に入っていただき、症状についてお尋ねすると、あまり変わっていないようです。
この時、ああそうですか、それなら薬……とはなりません!
フォローアップでは前回の診察時に出した課題の日常生活上の注意点を守ることやホームエクササイズがきちんと出来ていたかを確認することが必要です。
お尋ねすると、最初の2日ほど朝昼夜の3回位やっていたけれど、あとはあまりしなくなったと正直にお話くださいました。
実はここが大切なところです。
初回の診察時に、お伝えする事があります。それは次回の診察時まで日常生活で注意することやホームエクササイズについて患者さん自身に確認していただくと同時に、もし仮に出来なくても、そのことで怒ったりしないので、次回の診察時に何をどのくらい出来たのか、あるいはできなかったのかを正直に話していただくようお願いしているんです。
ここでエクササイズをサボっていた患者さんに対して、「なんで言ったとおりにしないんですか!!」と叱りつけるような態度をとるようでは、けっして患者さんを良い方向に導くことができません。出来なかったからやってなかったのです。その理由を聞いてあげなくてはいけませんね。
お尋ねすると、最初のエクササイズが出来ていた2日ほどは、むくみ感も良くなっていた事を自覚していたけれど、なんとなくその後やめてしまいました。
症状が比較的軽いため、あまり真剣には取り組んでおられなかったような印象です。
そこで、再度エクササイズを覚えておられるかチェックします。
やっているつもりでも、自己流になる患者さんは結構多いのです。
見ると、おおよそ良いのですが、しっかりといっぱいまで動かすところに甘さが見られます。
その箇所を再度ご説明してご自分で10回ほど頭を引いた位置でさらに自分の手で頭を後方に押し込む力を加えた後、しっかりと頚椎を伸展(上を向く)をしていただくと、
「軽くなってます…」
とちょっとだけばつが悪いような表情で正直におっしゃいます。
(RET w/op + EXT w/op)
この方の場合は少しこまめなフォローアップでエクササイズの習慣化にサポートが必要と判断し、通院しやすい近くの認定セラピストが所属する施設へご紹介いたしました。
治療がうまくいかないとき、その原因がどこにあるのか。
その原因を見つけるための鍵は患者さん自身がにぎっていると言っても過言ではありません。
患者さんに正直な情報を伝えてもらえるよう良好なコミュニケーション環境を築くことも治療を成功させるエッセンスの一つだと考えています。