膝を打ってから3ヶ月も痛みが続いています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝を打った後の痛みが3ヶ月も続いているという10代男児のお話です。
3ヶ月ほど前に、バスケットボールでジャンプして転んだときに左膝を床にぶつけたようで、以後、左膝の痛みが取れません。
また昨日、右足関節をひねってから少し右足関節外側の痛みがありますが、こちらは大したことはないようです。
座っている姿勢をみると、最近のお子さんによくみられるように猫背で丸い背中です。
痛みはオスグッド病のときなどに痛くなることがある脛骨結節と呼ばれる、お皿の下辺りにある骨の出っ張りあたりですが、痛みの範囲はなんとなくぼんやりしているようです。
体重が乗らない状態での屈曲伸展は左右に差はないのですが、しゃがみ込むと膝の前方に4点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。
まずは姿勢をしっかりと矯正してしばらく保持してみますが特に変化はありません。
腰椎は伸展(腰を反らす)がとても良くできるのに対して、屈曲(前屈)は少し制限されているようですが、痛みなどは特に変わりません。
猫背の姿勢でいることが多いようなので、まずは伸展方向から確認してみます。
うつ伏せになってしっかりと伸展を10回してから、しゃがみ込みでの痛みの出方を確認してみますが、あまり変わりはないように見えます。
他の動きでも痛みに変化はありません。
このような最初の症状に変化が見られないとき、マッケンジー法ではどれか一つのエクササイズを決めて数日間実行していただき、その結果をもとに次にどうするかを決めることがあります。
姿勢の悪さが目立っていましたので、その矯正をしっかりとしていくことがどのように影響するのか確認する意味合いで、姿勢の矯正と腰椎の伸展を宿題にして様子を見ることにしました。
それから3日後。
膝の痛みはどうかな?
もう痛くないです!
痛みは完全に消えてしまったようです。
エクササイズは家で2セット、部活のときに2セットくらいできました。
エクササイズを始めた翌日まではまだ痛かったのですがが、昨日はバスケットボールのときも痛みは全くありませんでした。以後、痛みのない状態が続いています。
現在やっているエクササイズは朝夕、部活のときなどに続けること、そして、良い姿勢を意識した生活を続けることはもちろんいちばん大切だということをお話して卒業としました。
今回は伸展方向のエクササイズで症状が改善したのですが、いつもそうとは限りません。初回の評価時点では少なくとも「悪くならない」ということは確認できましたので、それを続けてみることにしました。
診察の時間は無限にはありません。このお子さんのように初回の評価時点ではっきりしないときには、日常生活状況やそれによる症状の変化などの問診情報に加え、体の動かし方などを観察して、安全性を確認しつつ一定方向のエクササイズを宿題に決めることも少なくありません。
最初にははっきりとした症状の変化が見られないときでも、数日間繰り返すことによって症状が改善することは少なくありません。でも、もし逆に悪くなったら?……そのときにはその情報をもとに別の方向を探っていきます。