右腰の痛み、左足をかばって歩いているせいでしょうか?
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右腰痛と右胸部痛がある50代女性のお話です。
左アキレス腱の手術を受けられた方で、ほぼ治癒してフォロー終了しようと考えていたその日のこと。
実は、左足をかばって歩いているせいか、右腰の痛みがあるんです
実際に歩いていただくと、たしかに少し左足をかばって歩いているようです。
たしかにアキレス腱が良くなって歩き方がよくなったら腰も良くなるかもしれませんが、メカニカルな評価はすぐにその場で出来ます。
家では床の生活で、足をくずしたような横座りや、床に置くタイプの低いソファにもたれて座る事が多いようです。診察室で座っておられる姿勢も猫背の状態。
もちろんマッケンジー法による評価の禁忌にあたるような病態をお持ちではないことはすでに知っておりますので、このあたりは飛ばして評価をすすめます。レントゲン撮影もしません。歩いて診察に見えた方に動いていただくだけですから。
立位での右腰痛5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)をベースラインに評価を開始します。
可動域検査では屈曲は軽度制限がありますが、あまり痛みはかわりません。腰が伸びて気持ちいいくらいとのこと。
伸展も軽度の制限がありますが、こちらでは右腰痛が増強します。もどると元通り。
腰を横に動かす動き(マッケンジー法ではside glideといいます)は左右とも右腰痛の増強がありますが、もどると元通りです。
いずれもはっきりしませんが、少なくとも悪くなる動きは無いですね。
それではここからどうすすめるか……。
生活習慣や姿勢を参考にして、伸展方向を選択しました。
ここで、「えっ、さっき腰をそらして痛みが出たんんじゃ……」と思う方もいらっしゃるでしょうね。
でももどると元通りでした。こういう場合は何かそちらに動かしたらいいんじゃないかという根拠があれば症状の変化に注意しつつ動かす評価もありなんです。この方は姿勢の悪さと生活習慣を参考に、あえて「伸びて気持ちいい」と言われた方向とは逆のそらす方を選択します。もちろん、その根拠とひょっとすると悪くなることもありえることをご説明した上で評価を続けます。
診察台の上にうつ伏せになってもらいます。
この状態でお伺いすると右腰痛はなんと全く感じません。ここは重要な所見ですね。
伸展方向を選びましたので、例のマッケンジー法といえばのあのうつ伏せでの腰椎伸展(EIL: Extension in Lyingと言います)をやってもらいます。
まずは、1回だけ。右腰に5点の痛みがあります。でもまたうつぶせになると痛みは無くなります。
さらに続けて伸展エクササイズをしていただくと、2回目、3回目……、んっ?おやっ?……10回終わってお伺いすると最初の5点の痛みが10回目には1〜2点になっています!
再び立っていただいて腰を後ろに反らせていただくと、先ほどの5点の腰痛が1〜2点に減少しています!
そして前屈をしていただくと、
さっきより曲げやすいです
先ほどより曲げやすくなった事を自覚されました。
これもまた不思議ですよね!腰を反らすことを繰り返していたのに、曲げる方向も曲げやすくなるなんて。
これまたこの動かし方がこの患者さんに合っている事を示唆する所見の一つなんです。
もう一つ、右手で物を押すような動作で右前胸部に痛みがあるとのことで、実際に机をグッと押してもらうと5点の痛みがあることを確認できましたのでこれをベースラインにします。
両肩関節の可動域は正常で、どのように動かしても先程の右胸部痛は誘発されません。
座位での姿勢を再びチェックすると猫背だとわかります。
本当はあれこれと同時に評価するのは何がどう良いのか悪いのかわからなく可能性もあり慎重にすべきなのですが、すでに腰痛についてはエクササイズの方向性は見えていますので、胸椎の伸展まで行ってみます。
伸展のやりかたをご説明して1回やっていただくと、ほとんど胸椎が動かず頭だけ上に向いているように見えます。
ちょっとお手伝いして胸椎の伸展をやってみました。
背骨が〜……
と言われましたが痛いわけではないので、そのまま続けます。
2回目、3回目、痛みはないようです。そして5回終了。
先ほどのベースラインをチェックします。
症状の出たやりかたで机をグッと押してもらうと……
えっ?……痛くない!
……痛みは0〜1点でほとんど気にならないレベルになりました。
自宅での椅子の生活、姿勢指導、エクササイズの指導など行い右腰痛、右胸部痛についての初回セッションを終了しました。
左アキレス腱の術後であり、歩き方が悪いことが腰痛の原因だと患者さんは自己分析されていましたが、結局、問題解決の糸口は自宅の生活習慣と姿勢に隠されていました。患者さんの声に耳を傾けますが、それに流されること無く、生活習慣を詳しく聞き出して現在の姿勢も確認することの大切さを皆様にお伝えできれば幸いです。