肘の痛み、断捨離で重いものを持ちすぎたからなのでしょうか？
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肘の痛みで来院された70代女性のお話です。
70代といっても、フラダンスのインストラクターしていることもあって、とてもお元気な方です。
コロナの感染拡大で自宅にこもっている間に、断舎離して部屋の片付けなどしてすごしていたそうです。その時かなり重いものを動かしたりしたようで、その後、右肘が痛くなり整骨院に行き、少しもんでもらったりして症状は軽くなりました。それでも重いものを右手に下げて持つとやっぱり痛いため、右手には荷物を持たないようにしていたそうです。数回目の施術のときに、それまでより少し強く揉まれ、その後、痛みで肘が伸ばせなくってしまい、それからはその整骨院には行かず、別のところで鍼治療を受けてみたのですが症状は変わらないため来院しました。
単純Ｘ線写真では頚椎、右肘とも動かして問題になるような異常はありません。
マッケンジー法では評価の前後で症状がどのように変わるのかを評価していきますので、まず、現時点でどのような症状があるのかベースラインを確認します。
まず、座ったままの状態での症状をお伺いすると、じっとしていても右肘に違和感を感じているようです。あれこれと痛みがありそうな動作をしていただいているうちに、
あれっ、さっきはこうやって肘を伸ばしたときに痛かったんですけど、今はそんなに痛くないです…
先程は少し痛かった手のひらを上にして肘を伸ばす動作が、今はさほど痛くないことに気づかれました。
このような同じ動作でも痛いこともあれば痛くないこともある…
マッケンジー法を学んだ人はピンとくる情報です。
右肩90°挙上して前腕を回内して（手のひらを下に向けて）肘を伸展すると5点（考えうる最大の痛みが10点満点として）、座ったまま診察台の縁を右手で引き上げる動作で4点の痛みが再現できる事を確認できました。
まずは姿勢を矯正して保持すること1分。
さっき痛かったやり方で手を前に伸ばしてみましょうか
あっ、少し伸ばしやすいです…
（姿勢矯正保持 B？）
頚椎の可動域には特に問題はありません。
姿勢の矯正で良い印象ですので、引き続き脊椎をしっかり伸ばすのと緩める動作を繰り返してみます。
肘を伸ばすのやってみましょう
少しいいです…3点くらい
台を引き上げるのはどうでしょう？
これもいいです…2点かな
（SOC 5回 B 肘伸展 3点 引き上げ 2点）
改善が見られますので、さらに5回。
また痛みが減りました！
（SOC 5回 B 肘伸展 2点 引き上げ 1点）
十分に改善が見込まれそうですので、このエクササイズだけでしばらく様子を見てみることにしました。
それから3日後。
だいぶ良いようです。じっとしているときなどは違和感もなくなりましたが、本日はフラダンスの指導で肘を伸ばす動作のときに少し意識したようです。
前に右手を出すように、右手を下向きにして肘を伸ばす動作（右前腕回内での肘伸展）で5点と、まだそれなりに痛みがあります。
エクササイズのやり方をご自分でやっていたように5回やって見せていただきます。
背骨をしっかりと伸ばすやり方が少し緩く、「できるだけ」というところが十分ではないのがわかります。痛みのある動作をしてもらうと、4点とわずかばかり改善はしています。
（SOC 5回 B 肘伸展 4点）
この「できるだけ」というところが鍵になることがよくあることは、これまでも症例ファイルでご紹介してきたとおりです。このしっかりとやるやり方を再度ご説明し、5回やってみます。
あぁ、だいぶ軽くなりますね…
（SOC 5回 B 肘伸展 2点）
それから1週間、初診から10日目になります。
日常生活では意識しないくらいにほとんど良いのですが、まだ例の右肘を前の方にしっかりと伸ばす動作で3点の痛みがあります。
そして、今回自分の痛みについて気づいたことがあるようです。
こうやって右の脇を左手で押しながら肘を伸ばすと痛くないんですよ。手を真上に上げて肘をピンと伸ばしても痛くないのに、前に伸ばすと痛いんですよね……
ちょっと面白い気付きですよね。
これがどういう理由で起こっている症状の変化であれ、肘の伸ばし方が同じなのに他の部位の動かし方で痛くない事がある……このような気付きは症状改善のヒントになる事も少なくありません。
いつものエクササイズをチェックしてみます。
今何点くらい？
ここでやったらいいんですよね…1.5点かな
（SOC 5回 B）
悪くない改善度なのですが、だいぶ体の動かし方にも慣れてきているようなので、今日はさらに頚椎をしっかりと伸展するやり方をご説明してやってみます。
上手に出来ていますので、さらに負荷を強めにして5回追加してみます。
痛みはどうです？
だいぶいいです！…0.5点くらいかな
（RET+EXT 5回、RET+EXT w/op self 5回 B 右肘痛 0.5点）
脇を押しながら伸ばすと痛くなかったのは何でですかね？
今、そのことは面白いですね〜とは言いましたが、だからそこを押しながらやりましょうとは言いませんでしたよね？そのかわり首をしっかりと伸ばすことをやったら押さなくても痛みがほとんどなくなったわけですから、それでいいと思いませんか？
その症状がエクササイズで改善しうる症状であるのかという意味ではとても参考になる気づきだったのですが、だからといって右手を前に伸ばすときに常に左手で右脇を押すわけにはいきません。しかも、その動作をやめると症状は元通りです。
どこにこだわるべきなのか、あるいはどこは気にすることではないのか……この取捨選択の考え方をシンプルにご説明していくのも治療を成功させる大切な要素だと考えています。