case_187 左股関節痛

臼蓋形成不全と診断されたことのある股関節がまた痛くなりました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は臼蓋形成不全と診断されたことのある左股関節の痛みがあるという60代女性のお話です。

数年前にこれといってきっかけもなく左股関節が痛くなり、お近くの整形外科を受診しました。診察の結果、臼蓋形成不全と診断され手術を勧められたのですが、その後よくなってしまったので放置していたようです。それでもまた悪くならないようにと股関節の手術と言われてからは関節がよくなるようにとコンドロイチンなどサプリメントを飲み続けています。

1ヶ月ほど前から座っているときに殿部の尾骨あたりが痛くなってきました。最近、運動不足と自覚していて、思い立って昨日の朝ウォーキングをしたのですが、夕方から以前感じていたような左股関節の痛みを感じ、今朝もまだ痛いため、何か自分でできることがあればと考え受診しました。

関節リウマチと診断されて治療した時期があるとのことですが、完治したと言われ、現在はリウマチの治療は受けていません。

単純X線検査で股関節の状態を確認すると、左股関節は臼蓋形成不全(CE角15°)があります。関節軟骨のすり減りなどの変性はさほどありません。
もちろん、これによる症状があるのであれば手術になることはあるでしょう。

しかし、マッケンジー法ではこのような画像所見があっても、必ず脊椎から評価をします。

姿勢を整えて保持してみますが、症状の変化はありません。
可動域は特に異常ありません。

さらに負荷をかける検査を始める前に、再度歩いていただいて左股関節に3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)が再現されることを確認しました。

まずは立ったままで腰椎の伸展を10回実施してみます。

佛坂
佛坂

ちょっと歩いてみましょうか

A子さん
A子さん

あらっ、だいぶいいです!

佛坂
佛坂

何点くらい?

A子さん
A子さん

1点くらいかな…

(EIS 10回 B 左股関節痛 3→1点)

さらに5回、よりしっかりと伸展してからもう一度歩いてもらいます。

A子さん
A子さん

少しはまだあるけど…0.5点くらいかな

(EIS 5回 B 0.5点)

それから8日後。

もうほとんどよいようです。

先日受診してから日に日に痛みが良くなっていることが自覚できています。
エクササイズをする時に少しだけ左股関節に痛みがあるのですが、繰り返していると良くなっていくような感じで。今は普通に歩いても全く痛みません。

普段やっているとおりにエクササイズをやって見せてもらいます。

A子さん
A子さん

こうやっていっぱい反らせたときに、ちょっとだけ痛いです

ひどい痛みではなく、また戻ると痛みは残っていませんので、そのまま続けて5回。
続けるごとに徐々にその痛みも軽くなるのが自覚されます。

(EIS ERP 5回 反復とともに軽快)

A子さん
A子さん

股関節の軟骨は大丈夫だったんですかね…

佛坂
佛坂

今やってることは腰をそらすことだけですが、それで良くなっているので多少軟骨が傷んでいたとしても関係ないことがわかりましたよね

今回、実施していただいた立位での腰椎伸展エクササイズには股関節にも多少の荷重下の伸展負荷がかかっています。

なので、股関節の伸展エクササイズだけでも良くなった可能性は否定できません。

そんなときに、これは腰椎と股関節とどちらに関連した病態なのだろう……そう思う方もいらっしゃるでしょう。

しかし、たとえ画像所見に臼蓋形成不全があったとしてお、この時点ではどちらとも、あるいはそれ以外とも言えません。

言えることは「左股関節の痛みが立ったままで腰椎を伸展するエクササイズを続けたところ改善した」という事実だけです。

このようにたとえ四肢の痛みであっても脊椎からスクリーニングを開始し、運動負荷に対する反応のパターンからその分類を決めるというマッケンジー法の考え方はとてもシンプルで、ルールに従って評価を続ける限り、道に迷うことがない安定した評価・治療システムなのです。