一年以上前からCM関節症の診断で治療を受けています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は、両母指の付け根あたりが痛くて来院した70代女性のお話です。
一年以上前からこれといったきっかけもなく両母指の付け根あたりに痛みを覚えるようになりました。
以前、左母指ばね指と言われて手術を受けたこともあり、また左手根管症候群と言われて手術を受けたこともあるとのことです。
今年になって近くの整形外科で両母指CM関節症として治療を受けていましたが一向に改善しません。
単純X線写真の確認をしましたが、CM関節の変形はほとんどありません。
もちろん変形がほとんどなくてもCM関節の症状ではないとは言えません。
診察時には両母指を伸展するときに母指の付け根、CM関節あたりに5点の痛みがあることを確認できました。
この母指を伸展するときに痛いというのは、CM関節症ではあまりない症状かもしれません。
姿勢が悪いので、まずは姿勢を矯正して保持すること1分。
なんか違います…
先ほどとは両母指を屈伸したときの感じが変わったようです。
頚椎の可動域を確認すると、伸展(首をそらして上を見る動作)が中等度に制限されています。
頚椎の単純X線写真も確認しましたが、首を動かすことに問題はなさそうですので、まずは頚椎の伸展のやり方をご説明し、5回伸展してもらいます。
さっきやったように親指曲げ伸ばししてみましょうか
左はあまり痛くないです!右はまだ痛いですけど……
(RET+EXT 5回 B)
明らかな改善傾向がみられましたので、もう少し負荷を強めに5回伸展してみます。
先ほどと同じように確認していただくと、
左は全然痛くないです!右はまだ少し…
何度も動かしながら、確認していただきますが、やはり痛みは激減しています。
(RET+EXT w/op self 5回 B 左0点、右1点)
十分な改善傾向がみられましたので、この伸展方向のエクササイズを宿題にして初回評価を終了しました。
それから7日後。
だいぶよかったのですが、この数日台風のことなどで忙しくエクササイズがあまりできていなかったと言われます。
それでも両母指屈伸で2点と最初に診察した時と比べると改善しています。
エクササイズをチェックしてみます。
やや後ろに倒れがちなため、胸をもっと前に出すイメージでやっていただいた後に痛みを確認すると先程の半分になったようです。
(RET+EXT w/op self 5回 B 両側とも疼痛は半減)
さらに後ろに倒れないように背中を支えながら5回伸展を追加してみます。
痛みはどうですか?
今はほとんど痛くないです!右は全く痛くないかも……
(RET+EXT w/op self + op セラピスト 5回 B 左0.5点、右0点)
頚椎の伸展エクササイズで十分な改善が得られることがはっきりしましたので、引き続き伸展方向のエクササイズを行っていただくこととしました。
両母指CM関節の痛みと思われていた痛み。マッケンジー法で評価した結果は頚椎のエクササイズで改善する病態でした。
今回は単純X線検査で変形がほとんど無かったのですが、もし変形があって同様の病態を発症したら……ますますそれらしく見える「母指CM関節症モドキ」になっていたかもしれません。
これまでも症例ファイルでご紹介してきたとおり、このような「モドキ」は稀ではない、いや、むしろよく見る病態と感じています。
皆さんの手足の関節の痛みは、本当にその関節が悪いから痛いのか……それは単純X線写真やMRI画像などの画像所見によらず、実際に動かして評価してみないと何とも言えないのです。