さして思い当たるきっかけもない右上肢のしびれ
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は機械管理などのお仕事をされる60代男性が右上肢しびれで来院されたときのお話です。
1週間ほど前からさして思い当たるきっかけもなく右上肢にしびれを覚える様になりました。
case_13でもそうだったのですが、ここで、ああそうですか……と流してはいけません。
マッケンジー法を学んでからはその人の生活状況が目に浮かぶくらいにアクティブにお話を伺います。
それはその人の生活習慣や繰り返し動作に症状の原因がある可能性があるからです。
家での生活はどんな感じなのでしょうか。
お部屋の暖房はこたつがメインで、家ではほとんどこたつに背を丸めて前方のテレビを見るか、うつぶせで腰を反らしたようにして前方のテレビをみるかのどちらかのスタイルが多いようです。他にこれといって趣味はなさそうです。
しかし、立っている時はシビレが軽くなり、仰向けに寝ている時には全くしびれないとの有用な情報が得られました。
この、症状が全くない姿勢があるというのはその人の評価をどうすすめるかという意味で、非常に重要な情報です。
椅子に腰掛けておられる姿勢をチェックすると、かなりの猫背で頭が前に出ています。
(マッケンジー法ではprotrusion+と表現します)
姿勢に対するご自分の意識を確認するのも重要です。
ご自分の今の姿勢について、いいか悪いか普通かの三択だったらどれを選びますか?
普通だと思います
姿勢が悪いことをお伝えすると、えっ、そうですか〜という表情です。
まずは姿勢を矯正してみることの意義について、姿勢の悪さから手が痺れることもあるという事をご説明します。
今回は痛みがないので、自然に座っていただき右肩から右手橈側(親指側)にかけてのしびれ感をベースラインとして評価を開始します。
まずは姿勢を矯正して保持します。
30秒ほどしてご本人にうかがうと、
半分くらいになりました
少し恥ずかしそうに答えられました。
さっきまで、そう?って思ってたけど、やっぱり姿勢か〜って感じでしょうか。
しばらくしても、それ以上の改善がないので、先に進みます。
可動域では頭を後に引く動作が著しく制限されていることがわかります。
先の姿勢とあわせ、この首の動きの悪さの改善が問題解決のカギのように思われますので、まずは自分で頭を後に引く反復運動をしていただきます。
全く前後に動いていません。
しびれは先の姿勢保持だけとかわらず、最初の半分のままで効果無しです。
(RET反復 NE ただしRET不良)
頭を引く動作の時に自分の左手で手伝うやり方を指導して5回、さらに10回と繰り返すと……少しずつ前後動が出てきました。
気になる症状をお伺いすると……
今…しびれはありません
少しニタリと笑って、と答えられました。
そのまま立ち上がっていただいてもしびれの消失した状態をキープできています。
ホームプログラムと何よりも姿勢が一番大切であることををご説明して初回のセッション終了です。
今回、頚椎のレントゲン撮影をしなかったばかりか、注射や内服薬の投薬すらしていません。
このように手のしびれがあっても、MRIなどの高額な検査をせずとも症状が改善できる病態もあるのです。限られた医療資源を本当に必要な医療に使えるように不要な医療費を削るのも大切な事だと考えています。