4ヶ月ぶりにバドミントンを始めたところ、右示指の付け根が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回はラケットを振っていて手が痛くなったという50代女性のお話です。
実はこの方、かなり前に右肩の痛みで来院され、他院で撮影されたMRIで右肩腱板断裂があるのでバドミントンは無理と言われ、一度は諦めていた地方大会前に受診されて、評価の結果、頚椎のエクササイズで症状が劇的に改善し、一週間後に開催された大会で優勝した方です。詳しくはマッケンジー法・症例ファイル case_129でご紹介しています。
とはいえ、このコロナの自粛期間にはさすがにバドミントンはできなかったようで、3月から6月まで4ヶ月間全くバドミントンをせずにいて、久しぶりにバドミントンを始めてラケットを振り始めてまもなく、右示指の付け根にラケットのグリップが当たると痛みがあることに気づいたそうです。
その痛みはバドミントンをするとラケットを振っているうちに痛くなり、一週間ほど休んでいると良くなるという具合に、すれば悪いの繰り返しだったようです。
さて、以前は寝ていても右肩が疼いていた方ですが、今は右示指以外の症状はまったくありません。
しかし、寝る前にはきちんと首をしっかりと伸ばすエクササイズをしてから寝ているそうす。
寝る前にやっているというエクササイズをチェックします。
しっかりと顎を引いて背筋を伸ばして一分ほど、よくできています。
右肩の症状が強かったときは、頚椎にかなり強めの負荷をかけるエクササイズを実施していましたが、今は、このエクササイズのみでお仕事中はもちろん、寝るときも全く症状は再発していませんのでそれで良かったのでしょう。
さて、今回の痛みの場所は右示指の付け根、指先で押さえてはっきりとここと言える小さな範囲の痛みで、ラケットのグリップを振るとちょうど当たりやすい場所だけです。他の部位の痛みやしびれなどは全くありません。
単純X線写真を確認すると、右示指の付け根に種子骨と呼ばれる小さな丸い骨があり、ちょうど痛みの部位に一致しています。
このような病歴と理学所見、画像所見から、一般的には足で時に見られる種子骨障害と呼ばれる状態に似ているように見えます。
このような場合、マッケンジー法ではどのように評価をするのでしょうか?
ラケットが当たって骨のところが痛くなったんだから、痛い示指から?
いえ、やはり頚椎から評価をします。
特にこの方は以前右肩の症状が頚椎のエクササイズで劇的に改善したことがあり、またその後、4ヶ月ほどエクササイズをほとんどしない状態で事務的な仕事をなさっていたということなど、かなり頚椎を評価してみたいと思わせる材料が揃っています。
頚椎の可動域には特に問題ありません。
バドミントン関係でお見えになる人がやや多いので、今ではバドミントンのラケットも診察室に準備しています。
いつものようにラケットを振ってもらいます。
こうやってオーバーで振ると、当たるときに痛いんですよね
指先で押したときに3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)くらいの痛みでしたが、ラケットを振ると5点の痛みがはっきりとピンポイントで再現されることを確認しました。
以前やっていた頚椎をしっかりと伸展するエクササイズを再度ポイントをご説明してやってみます。
もともとアスリートでもあり、マッケンジー法のエクササイズ経験者ですから最初から大変お上手です。
まずは5回しっかりと頚椎を伸展してから、さっきと同じようにラケットを振ってもらいます。
あっ、さっきよりいいかも。ズキンってくるのがなくなりました!
(RET+EXT w/op self 5回 B 響き方の軽減感あり)
自分としては指の問題だと思っていたのでとても驚いた様子。
さらに5回続けます。より「しっかりと」を意識してもらいます。
押して痛かった感じはどうですか?
さっき痛かったはずの部位とその周りも何度も押して確かめながら、
押すのは…もう押しただけだと痛くないです!
ラケット振ってみましょうか?
いま3点くらい…骨の当たる感じがなくなりました…こんなに重いラケットでこのくらいなので、自分のだったら全然痛くないかも……
(RET+EXT w/op self 5回 圧痛abolish、ラケット振り3点)
診察室においているラケットは、リユースショップでみつけたかなり古いラケットで重いもののようです。
お伺いしたところ、現在のラケットは卵一個分みたいな重さだとか。ラケットも進歩していますね!
今回は一見すると種子骨の部分がラケットのグリップの刺激で痛くなったイベントのように見えましたが、評価の結果は頚椎に関連した痛みであったようです。
そもそも以前は競技レベルの選手としてプレイされていた方にとって、通常だったら痛くなるとは考えにくいようなちょっと練習した程度の負荷で始まった右示指の付け根の痛み。
これまでにも、軽い足の捻挫の後、だらだらと足の痛みが続いていたときに、マッケンジー法で評価した結果は腰椎に関連した痛みであったというお話など、外傷の程度と見合わない症状が脊椎の評価により改善した症例をいくつかご紹介してきました。
打ったから痛い、ひねったから痛い……でもそんなにひどいケガではなかったのに……そんなダラダラと長く続いている手足の痛みには脊椎の状態が関連しているのかもしれません。