右手首をひねった後に徐々に痛みが広がっています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は、右手関節をひねってから痛みがだんだんとひどくなってきたという30代女性のお話です。
ライン作業の仕事で、右から左に物を動かす作業に従事しています。4日前、いつもの作業をしていて、何か右手をひねったような感じで急に痛みを覚えたようです。その後さほど痛みが強くなることもなかったため仕事は続けられました。
ところが、それから2日ほどした頃に痛みが右前腕〜右手第一指間あたりまで広がって感じるようになり、ものを抱える、握るなどの際に少し力が入れにくい感じも出てきました。
今は子供を抱き上げるときやものを持ち上げるときなどに右手首あたりに5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。整骨院で電気治療やテーピングなどの治療をうけていますが、全く症状は変わりません。当院の小児科にお子さんを連れてきたときに、ふと当院にも整形外科があると気づいて受診されました。
頚椎の単純X線写真では側面像で軽い変性と後弯(背中側に凸の状態)があり、いわゆるストレートネックの状態です。
まず普通に座っている状態でどのような症状があるか確認すると、右肩から腕のあたりに違和感があります。
姿勢は猫背。そこで、まずは姿勢を矯正して保持すること1分。
今は違和感がないです…
(姿勢矯正保持 abolish 右肩から上腕の違和感 B)
頚椎の評価を続けます。
フライパンを持って返す動作をすると6点の痛みがあり、同じ動作をもう一度してみて同じ疼痛が再現できることを確認しました。
頚椎のROMをチェクすると伸展(上を向く)が中等度に制限されていて後頚部の痛みがありますが、普段あまり上を向いていないので上を向く時に首がいたいとは気づかなかったようです。
上を向くのは少しつらそうですので、まずは顎をしっかりと引いてさらに自分の手でさらに負荷を少し増やすやり方をご説明し、5回繰り返して、もう一度フライパンを先ほどと同じように返してもらいます。
あれっ、あまり痛くないです
(RET w/op self 5回 フライパン返し 3点 B)
今度は座った状態で、胸をしっかりと前に出して、顎を同時に引く動きを説明して5回。もう一度、フライパンを返す動作をしてもらいます。
…今はなんともないです!
何度もフライパンを返して確かめています。
0点?
0点ですね…不思議…
(RET w/胸椎 EXT 5回 フライパン返し abolish B)
今回は右手首を捻った後に徐々に痛みの範囲が広がったという症状でしたが、マッケンジー法で評価した結果は頚椎に関連した疼痛であったようです。
このように、一見すると比較的軽い捻挫や打撲などの外傷の後に痛くなり、その痛い部位には熱感も腫れもないのに、その後の経過が芳しくないような時には、その症状が局所のダメージによる疼痛ではなく脊椎に関連した疼痛であることが少なくありません。
この事実を裏付けるかのように、2019年9月、四肢の症状のみのある患者369名についてマッケンジー法により評価をした結果、四肢の症状の訴えをもつ患者のなんと43.5%が脊椎関連の症状であったという論文が発表されました。
マッケンジー法ではこのような一見すると四肢の外傷による症状と思える場合でも必ず脊椎から評価します。このルールに従い評価することにより、実は脊椎に関連した症状である四肢の「捻挫モドキ」や「打撲モドキ」をあぶり出すことができるのです。
【参考文献】