一週間ほど前にウォーキングをしていて右膝が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は、ウォーキング中に右膝が痛くなり来院された70代女性のお話です。
一週間ほど前の朝にウォーキングしていて少し右膝が痛いと感じました。翌日、大宰府に行って30分ほど歩いてまわり、さらに痛みが増悪したようです。その後も痛みが悪化するため、かかりつけの脳神経外科にかかったところ、そちらでは膝の検査ではなく、なぜか頭部MRIなど撮影され、異常なしと言われたそうです。
さて、その脳神経外科で整形外科を受診するように言われ来院しました。立ち上がる瞬間や、階段の上り下り、寝返りの時などに痛みがあるようです。じっとしている時は痛みはありません。
腰椎の単純X線写真(レントゲン写真)では軽い変形(L4/5変性すべり)を認めますが、動かして問題になるような不安定性は認めません。
腰椎の可動域検査では腰を横に動かすときに右膝にいつもの痛みが走ることが確認されました。
(LSG P 右膝痛)
このように腰の可動域検査をするときに症状が再現されるときには、腰椎に関連した病態をより強く疑います。
ご高齢でもありますので、安全面を考えて流し台のところに来ていただき、腰を流し台に当てて安定させた上で腰椎の伸展をしてみます。
まずは一度しっかりと伸展してみて特に問題ないことを確認しつつ続けて5回、様子をうかがいさらに5回。
ちょっと歩いてみましょうか
あらっ…少し歩きやすいみたい…
好印象ですが、ちょっとお疲れのよう。そこで、座っていただき、腰をしっかりと伸ばしてみます。
また少し良くなったみたい…
(SOC 5回 B)
どちらも効果がありそうですので、この二つのエクササイズを宿題にして持ち帰っていただくことにしました。
それから3日後。
だいぶ良いようです。といっても、今も歩行時に5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)くらいの痛みがあります。
エクササイズのやりかたをチェックしてみます。お約束どおり流し台のところに行って腰を5回反らしました。少しいいかなというくらいです。
(EIS流し台 5回 B 歩行時痛改善? 4点)
エクササイズはできているように見えますが、最後のしっかりと一杯までそらすところが少し緩いので、この点をご説明してあと5回、伸展エクササイズを追加します。
歩く時の痛みはさらに軽くなり3点。
(EIS流し台 ER意識して 5回 B 歩行時の右膝痛 3点)
座ってやるエクササイズも「しっかりと」という点を意識しながら5回やっていただき、もう一度歩いていただくと、右膝の痛みは2点にまで下がりました。
(SOC 5回 B 歩行時の右膝痛 2点)
方向性は間違っていないようですので、このまま現在のエクササイズを続けることにしました。
それから4日後、初診から7日目になります。
だいぶ良いと言われるのですが、まだ歩行時に3点の痛みがあります。
エクササイズをチェックします。腰をしっかりと伸展してから、もう一度歩いてもらいます。
今は…痛くないです!
(EIS流し台 5回 abolish B)
3点だった右膝の歩行時痛が腰の伸展エクササイズで消失しました。
それから10日後、初診から17日目。
もうなんともないようです。
エクササイズのやり方をチェックしてみると、どちらのエクササイズもしっかりとポイントをおさえてできているのがわかります。
高齢者が長く歩いた後に膝が痛くなった時、膝が変形しているからとか歳のせいだとか考えがちですよね。しかし、この方には膝についてのエクササイズなど何一つ実施することなく、腰椎の伸展エクササイズのみで膝の痛みは完全に消えてしまいました。いや、膝はたまたま自然に良くなったのだろうと言う人もあるかもしれませんが、今回ご紹介したとおり診察室で腰のエクササイズをした後に3点の痛みが完全に消えてしまった事実をみると、腰椎に関連した膝の痛みであったと認めざるを得ないように思うのですが、皆さんはどう思われますか。
以前にも似たような症例をご紹介したことがありますが、このようなことは決して珍しいことではありません。
歳を取ると荷重関節(股関節や膝関節など体重の載る関節)など、負荷のかかりやすい関節は程度の差はあれど多くの方でそれなりに変形してきます。これまで膝が痛くて整形外科にかかりレントゲン写真を撮ってもらい、変形性膝関節症と診断され、膝の治療を受けているという方も多いでしょう。痛い部位のレントゲン写真やMRIの画像で変形などの異常があるからそこが痛みの原因であると言えるのか…。今回のお話から皆様にも考えていただければと思います。