2週間前から続いているという頭痛、寝ている時だけしか痛みはありません
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は頭痛で夜が寝られないという90代女性のお話です。
お話をすると滑舌も良く、比較的よくご自分で動き回るというとても90代とは思えないお元気な方です。
2週間ほど前、夜寝ているときに頭痛を覚えて以来、毎晩、寝ている時に頭が痛くなるため、お近くの脳神経外科で頭部CT検査も受け異常なしと言われました。
頭痛は夜寝ているときだけで、昼間はなんともないようです。もちろん、診察室に座っている時にも症状は全くありません。
頭痛は夜寝ているときだけという、はっきりとした頭痛の出るタイミングがあります。
整形外科と頭痛とは関係がないように感じられる人も多いと思います。
頭痛は様々な原因で起こりますが、頚椎や姿勢に関連した頭痛が少なくないことはあまり知られていません。
というわけで、頭痛についてもマッケンジー法では頚椎や姿勢など脊椎に関連したものでないかを評価します。
頚椎の単純X線検査では僅かな変形(C4/5すべり)がありますが、屈曲伸展の画像で比べてみても安定しているようです。
頚椎の可動域検査では、いずれも年齢相応といった感じで中等度の制限がありますが、頭痛は誘発されません。
姿勢は猫背ですが、姿勢の整え方をご説明すると、ご高齢の割に背筋を伸ばすことが出来ます。特に症状は出ません。
実際にご自宅で寝ておられるときの枕の高さをお伺いして、バスタオルを折り曲げてその高さに近い枕をつくり、自宅での寝方を再現して数分間様子を見てみましたが、この程度の時間では頭痛は起きないようです。
さて、寝ているときにしか症状が出ない頭痛で、診察室でも症状が再現できない場合、どのように評価を進めるのがよいでしょうか。
枕やお布団などの寝具を変えてみる?
そういう選択肢を選ぶ方もあるでしょう。しかし、この方は寝具を変えたから起こった症状ではありません。
このような場合、マッケンジー法ではこうするという決まったルールがあるわけではないのですが、私はこのような場合は寝る時のことはとりあえずそのままにして、昼間、起きている間にできることから始めるようにしています。
それは、寝ているときのことを思い通りに変えるのは難しいのに比べ、目覚めている昼間にやれることを変えるほうが遥かに簡単だからです。
何をするかについてはそれぞれの患者さんの症状や生活状況などの情報に加えて、診察室での姿勢や体の動かし具合でどう症状が出るのか出ないのかなどを参考にして決めます。
ご高齢でもありますので、安全性を最優先して、座ったままでしっかりと背筋を伸ばすことを繰り返すエクササイズを5回やってみました。
お腹がつっぱりますね…、でも首の周りは気持ち良いです
(SOC 5回 お腹のつっぱり P)
背筋をしっかり伸ばすときにお腹が突っ張って痛いと言われますが、もとに戻るとその痛みは残りません。長い間、猫背で生活していた方にしっかりと背筋を伸ばす指導をする時にはよく聞かれる訴えです。
このような痛みの多くは今まで縮こまっていた所を伸ばすときの痛みで、気にせずにしっかりとストレッチを繰り返していると、多くの場合は数日内に消えてしまいますので、その旨ご説明して続けていただくことにしました。
結局、初診時には頭痛については全く症状を再現することが出来ないまま、エクササイズのやり方のご説明とそのエクササイズで悪影響がないかなど安全性を確認して評価を終了したことになります。
その翌日。
昨晩はとても良く眠れたと喜んでご報告いただきました。
どのくらいエクササイズが出来たかとお伺いしたところ、大して出来なかったと言われますが、付き添いでみえたご家族からみるとそれなりに実施しておられたようです。
まだ頭痛が無かったのは一日だけですから、偶然良い日だったのかもしれませんので、引き続き同じエクササイズをしっかりと続けていただくことにしました。
それから3日後。
ここに来てから、頭痛はすっかりよくなったんですよ。もう、どーもなくなりました!
頭痛は前回の受診以来、すっかり良くなってしまったとニコニコ顔。
エクササイズをチェックしてみます。
しっかりと背筋を伸ばせています。
お腹の突っ張りは?
もう突っ張らなくなりました
今回は2週間ほど毎晩続いていた寝ているときだけの頭痛が、しっかりと背筋を整えるエクササイズだけできれいに消えてしまいました。
もちろんすべての頭痛がこの方のように良くなるわけではありませんが、頭痛の中には脊椎に関連したものが少なからずあります。
そしてそのような脊椎(主に頚椎)に関連した頭痛は頚椎を中心とした脊椎を整えるエクササイズで改善していく頭痛もあるのです。