case_151 後頚部痛

首から背中と腰に慢性の痛みがありプレガバリンも服用しています

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は首の後から背中あたりの痛みと腰痛とで来院された60代女性のお話です。

スーパーの野菜売り場でやや前かがみの姿勢で長時間立ちっぱなしのお仕事です。一年ほど前から下を向いて仕事をしていると首から肩の痛みを自覚するようになりました。
また朝起きたときの腰の痛みについても気になるようです。お近くの整形外科にかかり、消炎鎮痛剤であるロキソプロフェン、筋緊張改善作用のあるエペリゾン、末梢神経障害に使用されるプレガバリン(商品名:リリカ)を処方されていますが症状は全く変わらなかったようです。
最近引っ越してきて、当院で処方の継続を受けたいとのことで来院されました。

とはいえ、本当にこれらの薬が必要なのかという印象の身のこなしです。

まず、プレガバリンが投与された理由をどのように説明されたのかお伺いしてみると、首から肩の痛みがあったときに近所の整形外科で相談したところ、神経痛だろうと言われて処方を始められたようです。
そして薬局では、このお薬はやめると症状がひどくなるからやめないほうが良いと言われ、もう一年近く内服を続けています。

その当時の症状もしかり、現在に至るまでの症状もしかり、神経障害によると思われるような痛みは、少なくとも私には無かったように感じられます。これまでお薬に頼っておられますし、やめたら悪くなると説明されるとなおさらのこと、急にお薬をやめるのは抵抗ありますよね。
そこで、現在のお薬がおそらく症状に関係していないと思われることをご説明して、それから10日間程をかけて他のお薬と一緒に少しずつ減らしていたくことにしました。

そして当初の半分の量に減ったところで症状には何も影響がなかったことを確認できました。

基本的にはお薬を止められるものなら止めたいと考えていらしたので、エクササイズによる改善の可能性をご説明し、いよいよマッケンジー法による評価を開始します。
初回評価の時点では上を向くときに少し首の後が痛む程度で動きはさほど問題ありません。その他の評価を行い、まずはしっかりと姿勢を整えるエクササイズを続けていただくことにして様子を見ることになりました。

(セルフエクササイズ:slouch-over correct反復のみ)

お薬についても、さらに減らしていくことをおすすめし、それから一週間後。

プレガバリンは朝の一回だけに減らしていますが、全く問題ありません。

エクササイズはきちんとやれているようで、1日5-6セットはできたそうです。

A子さん
A子さん

最初はお薬も夜だけやめてみようと夜やめてみたら、ちゃんと眠れたんです

やめることで悪くなるかもしれない…そういう思いを自ら克服できたようです。

そして首の後の痛みはというと…嘘のように軽くなったのでびっくりしているそうです。

先週末の土日も重いものを持つ作業が多かったので少々つらかったのですが、エクササイズをやるとスーッと楽になるのがわかったようです。

エクササイズを開始した日から2日ほどは背中の痛みを感じましたが、その後、その痛みは消えてしまいました。

エクササイズをチェックします。

当初ご説明したやり方がかなり自己流に変わっていて、背筋を縦にグーッと伸ばしてから顎を引いて少しおいて戻る感じになっています。

佛坂
佛坂

上を向く痛みは今どうでしょうね

A子さん
A子さん

今は痛くないです。右と左も向きやすくなったんですよ。腱鞘炎も軽くなった感じだし…

腱鞘炎と思っていた手首の痛みも軽くなっています。

上を向いてみると、以前のような痛みを感じず、向きやすくなっているのがわかります。
そこで、しっかりと頚椎を伸展するエクササイズをしてみます。

A子さん
A子さん

すごく汗かくような感じですね!

佛坂
佛坂

次回までこの体操をしっかりやってみて、それで残っている症状をみてから次にやることを決めましょう!

A子さん
A子さん

体操はやりすぎたりしないんですか?

佛坂
佛坂

今までやりすぎた人は見たことがないので、そのやりすぎた人の第一号になって驚かせてくださいね!

(セルフエクササイズ:RET+EXT w/op self 5回/セット できるだけ)

もはや朝一回飲んでいたプレガバリンもやめても問題ないレベルになっているようですので、いつでもやめて問題ないことをご説明しました。

それから2週間後。

もうすっかりよいようです。

エクササイズは1日5-6セットはできたそうですから優秀ですね。

正直な感想として、飲んでいた薬を全部やめてしまい、今はウソみたいに良くなってびっくりしていると言われます。

朝起きたときにあった腰の痛みもすっかり良くなり、手首の腱鞘炎と思っていた痛みもよくなってしまいました。

それに加えて、なんとお通じも良くなり、冷え性もよくなったそうです。

さらに、食べる量も運動量も変わらないのに体重が2kgほど減ったそうですが、これは薬を飲んでいた頃に感じていたむくみが今は感じなくなった事と関係しているかもしれません。

エクササイズをするために、最近ではあえてトイレに通常の2倍くらいの頻度で行っているそうで、とても熱心にエクササイズを習慣化していることがわかります。

今回ご紹介した方は、プレガバリンというお薬を飲んでいましたが、効いた実感は全く無かった上に、やめても全く影響がありませんでした。

実はこのプレガバリンというお薬は、最近、乱用が問題視されているお薬です。プレガバリンの適応症は「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」となっていますが、「線維筋痛症」については「米国リウマチ学会の分類(診断)基準等の国際的な基準に基づき慎重に実施し、確定診断された場合にのみ投与すること」と注意書きがなされているものの、「神経障害性疼痛」については明記されていないため、医師の診断さえあれば使えるような包括的な病名になっています。

実際にはその効能が治験で実証されている具体的な傷病は「線維筋痛症」、「帯状疱疹後神経痛」、「脊髄損傷後疼痛」だけであるということをここで改めてお知らせしておきたいと思います。
とはいえ、「神経障害性疼痛」という包括的な病名での処方が認められたおかげで、様々な神経痛でお悩みの患者さんが救われたことも事実でしょう。
しかし、この病名が適応症になっているため「痛いと感じるのは神経なのだから神経痛だろう」という考えで本来意図された「神経障害性疼痛」とは異なる「痛み」に対して驚くほど多く処方されているのも事実です。

ちなみに急性、慢性の坐骨神経痛に対してプレガバリンが有効ではないという報告や、FDAの推奨しないプレガバリンやガバペンチンなどの使い方は有効ではないという報告もなされ、現在の乱用状況に警鐘を鳴らす報告がすでになされています。
今回の症例を通じて、そのような現状を皆様にお伝えできれば幸いです。

【参考文献】

Trial of Pregabalin for Acute and Chronic Sciatica N Engl J Med 2017; 376:1111-1120

Markedly Increased Off-Label Use of Gabapentinoid Drugs for Pain Management JAMA Intern Med 2019 Mar 25

A Clinical Overview of Off-label Use of Gabapentinoid Drugs. JAMA Intern Med. Published online March 25, 2019.