思い当たるきっかけもなく1ヶ月ほど前から続く手関節痛
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右手関節の痛みで来院した20代男性のお話です。
この方は近くの大学で数学を勉強している学生さんで、ネットで検索して最寄りの整形外科だったので来院しました。
1ヶ月ほど前に、ふと、右手関節が痛いことに気づいたそうです。手をついたり、右手関節を橈背屈(親指側、手の甲側に曲げる)するときなど痛みがあります。またタブレットを使うときに指を開く動作などで第一指間(手の親指と人差指の間あたり)の痛みもあります。
現在の症状も手関節の橈背屈、手をつく動作で6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあることを確認しました。
座る姿勢を観察すると、猫背がありますので、まずはしっかりと姿勢矯正保持を1分ほどしてみます。
さっきと同じように手首を動かしてみましょうか
あれっ、こっちはまだ痛いけど、これは大丈夫…
痛みが少し変化したことに気づいています。
頚椎の可動域制限はありません。
この首の動き具合を確認しているときに、自分で右手関節を少し動かしながら、痛みの感じ方がコロコロと変わるのがわかるようです。
ますます頚椎に関連した痛みのように思われますので、さらに頚椎の評価を進めます。
お若く頚椎の動きに問題がないこと、先程の姿勢矯正保持して症状がやや改善したことも参考にして、最初から少し負荷を強めにしっかりと伸展してから、もう一度、痛みの具合を確認します。
こっちは…あれっ、日常の動かす範囲では痛くないですね…
台に手を付きながら、
ここまでやると少し痛いです
(RET+EXT w/op self 5回 B)
しっかりと手をつくとまだ痛みがあるようです。
良い印象ですから、さらに負荷をしっかりとかけて伸展すること5回。
こうやってしっかり手をつくと少しだけって感じですね…どんなメカニズムなんですか?
人間の体も動きのバランスが重要なんですよね。数学も似たようなもんじゃないでしょうかね。美しい数式もバランスが取れてるでしょ?
たしかに!
かなり明確な方針が決まりましたので、自宅でのセルフエクササイズについてご説明して初回評価終了です。
それから3日後。
エクササイズの実施状況についてお伺いすると、1日10セット以上はできたそうです。
結果、昨日までだいぶよかったようなのですが、昨日、2時間ほど勉強したあとに右親指を上に向けるような動作ですごく痛くなったとのこと。
その後エクササイズを続けていたら、今朝はなんともありません。さらに、そのひどかった右親指の痛みも、痛む場所と痛み方がこれまでとは違ったようです。
今はしっかりと手をついても少し違和感があるくらいです。
エクササイズをチェックします。
首の動きがとても柔らかいぶん、しっかりとやるべきところが少し甘くなりがちなのがわかります。
そこで、さらに負荷をかける工夫をご説明してさらに5回やっていただき、先ほどと同じように、しっかりと手をついてもらいます。
今までで一番いい状態ですね!
(RET+EXT w/op self ER意識して 5回 B)
それから7日後、初診から10日後。
少なくて1日6セット以上はできたとのことなので、かなり優秀です。
いまは痛みの確認のために思いっきり背屈強制すると少しだけ痛いことが日に2回くらいあるかという程度で、ほぼ問題なしの状態が続いています。
念のためエクササイズをチェックしますが、とてもしっかりと出来ているのがわかります。
薬も使わずに体操でよくなってしまったのは驚きでした!
今後の注意点などご説明して卒業です。
今回、きっかけもなく右手関節が痛くなって、頚椎のエクササイズで症状は速やかに改善していきました。その間、右手関節の痛みという意味では一貫していたのですが、よくお伺いすると、痛みの細かい部位や、どう動かすと痛いのかということがコロコロと変わっていた事がわかります。このような痛み方が変わったり、痛い部位が動くなどの症状は、その痛みが早期に改善できる可能性が高いことを示唆する所見でもあるのです。