足底腱膜炎と診断された右踵の痛み
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右踵(かかと)の痛みで来院した30代男性のお話です。
3ヶ月ほど前にジョギングしていて右踵が痛くなったことがあったのですが、靴を換えたところ良くなってしまったようです。それからしばらく問題なかったのですが、一昨日の朝から特にこれといったきっかけもなく右踵の痛みを覚えるようになり、近くの整形外科にかかったところ、足底腱膜炎の診断でリハビリ開始となりました。治療を受けたものの、あまり変わった感じがありません。実はこの方、一年ほど前に、右の手関節の痛みで来院したことがあります。
このとき、マッケンジー法で評価した結果、頚椎のエクササイズでその日のうちに症状が改善したという経験から、ひょっとしてマッケンジー法では違うかも……と考えたそうです。
お仕事は介護職で、忙しく動き回る毎日です。
単純X線写真では腰椎の前弯が強いタイプの腰ですが、動きに特に問題はありません。
歩く時の右踵の痛み4点(考えうる最大の痛みが10点満点として)をベースラインとして評価を続けます。
まだ症状が出て2日ほどですから、まだ痛みがどのように強くなるのかなどの日常生活における気付きはありません。
このように右踵の痛みについて伺った情報からはこれといったヒントが読み取れないとき、どのような順番で評価を始めるのか。マッケンジー法では腰椎の矢状面(屈曲・伸展方向)から始めます。
まず座った状態でしっかりと腰を曲げる動きを10回やっていただき、もう一度歩いてもらいます。
踵の痛みどうです?
少しいいかなぁ…
(FISit 10回 B? 3.5点)
少なくとも悪くなさそうなので、今度は仰向けに寝て、両膝を抱え込んで丸くなるようにしっかりと腰を丸める状態を1分続けてもらい、もう一度歩いてもらいます。
こっちのほうがいいかも……
(FIL 1分 B? 3点)
さらに1分を休憩をはさみながら3セット続けた後に、再び歩いてみます。
また少し痛みが減りました
(FIL 1分☓3回 B 2.5点)
3セット繰り返したわりに、あまり変化がなかったので、今度は別のことをしてみます。
座ったままで骨盤をしっかりと倒すことをご説明しながら5回。
この骨盤を倒すというのは少しわかりにくいかもしれませんが、座ったまま腰だけを丸めるようなイメージです。
これはあまり変化がみられません。
座ったついでに、もう一セットだけ座った状態で腰を曲げるエクササイズを10回してみます。今度はすこし限界を意識してさっきよりもっとしっかりとやってみます。
また少しいいです
(FISit 10回 さらにER意識して B 2)
少しずつ痛みが軽くなって、評価開始時点の半分くらいまで改善しました。
姿勢やエクササイズについてご説明して初回評価を終了しました。
それから1週間後。
すっかり良いようです。
初診の翌朝に2セットエクササイズをしてから、その日のうちによくなってしまいました。
その後、少しだけ踵の違和感を意識したのですが、すぐによくなりました。体操は…もう全くしていないのですが再発はしていないようです。
前に手首が痛くなったとき、他の整形外科では塗り薬とか出してもらうだけだったんですが、ここは違ったんです
この方は一年ほど前に右手関節が痛くなり当院を受診し、その際にエクササイズのみで1週間ほどで完治したという成功体験をしていて、今回も薬じゃない治療があるんじゃないかという思いから来院しました。
今回は踵の痛みが腰を曲げるエクササイズで改善するという結果になりましたが、他の同じような症状をお持ちの方が皆さんそうというわけではありません。
その痛みがエクササイズでよくなるものなのか…よくなるとすればどのようなエクササイズでよくなるのか…実際に身体を動かしてみないと何とも言えないのです。