打ったり捻ったりした記憶がないのに右膝が痛くなってきました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は1週間ほど前から右膝が痛くなったという16歳男子のお話です。
1週間ほど前から走るときや空手の形で蹴るときなどに右膝の痛みが続くため来院しました。
座っている様子をみると姿勢が悪く、いまどきよく見られる猫背です。
自分の姿勢はいいか、悪いか、普通かっていうと、どれだと思う?
普通ですか?
明らかに悪い姿勢であっても、「あなたは姿勢が悪いので、姿勢をこんなふうに正しましょう!」などとやることを急がず、本人が自分の姿勢をどう考えているのかをまず確認します。
姿勢矯正保持してみますが、特に変化はありません。
膝はもちろんのこと、腰椎にも特に可動域制限は認めません。
普通に歩いた程度では症状が全く無いので、エアで右膝の蹴りを入れる動作をしてもらうと、右膝の前側に3点程度(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあることが確認できました。
姿勢の悪さを参考に、まずは椅子の背もたれを利用して立ったままで腰を5回反らしてみます。
エアで蹴ってみようか
さっきと同じようにエアで蹴りをやってもらいます。
今何点だった?
1点くらいです…
(EIS椅子の背もたれ 5回 D-B)
余裕があるように見えたので、さらに限界まで反らせることを意識して5回追加してみます。
もう一回蹴ってみようか
痛くなかったです!
(EIS椅子の背もたれ 5回 abolish B)
症状としては軽かったものの、顧問の先生から「膝は癖になるから早めに見てもらえ」と言われたそうです。
今一緒にやったことを考えてみて、膝が悪かったと思う?
腰です!
即答してくれました。
たしかに腰を反らすエクササイズをして右膝の痛みが良くなったのですから、こんな答えが返ってくるのも当然と思われる方も多いでしょう。しかし、痛みのある部位ではないところに関連した痛みというのは、すぐに腑に落ちない人の方がむしろ多いのです。自分のやったこととその結果どうなったかが何の疑いもなくそのまま頭に入ってくるところが若さなのかもしれません。
学校でもエクササイズが実施できるように背もたれを使わないエクササイズも5回追加し、特に問題ない事を確認しました。
(EIS 5回 NE)
それから2日後。もうほとんど痛くありません。エクササイズは結構頑張れたようで10セット/日くらい出来ました。
昨日、3時間ほど空手の形の練習をした際には、最初に走るときは前後にエクササイズをして全く症状はありませんでした。しかし、練習中だんだんと右膝に2点くらいの痛みが出たようで、その後エクササイズをしてすぐに良くなったという症状の消失体験が出来ています。
今日はさらに良いようで、すでにエアで蹴っても症状は再現されません。
エクササイズをチェックして、しっかりとやるところを念押ししておきます。
それから一週間後。
この数日、全く痛みがない状態が続いています。
それでも約束通りエクササイズは1日に5セットくらいは続けてくれました。
エクササイズのチェックを行います。
すると、またしっかりと限界までやるところが少し甘くなっているので、この点を再度指導します。
姿勢も気をつけてるかな?
はい!
返事は良かったのですが……少し猫背のままでした。
マッケンジー法ではできる方には可能な限り再発予防まで自己管理できるように指導を行っていますが、これがなかなか難しいのが現実です。
特に症状が劇的に改善する方の多くが日常生活において気をつけるべき姿勢やエクササイズの実施が習慣化される前にやるべきことをやめてしまい、また数ヶ月して同じ症状で来院することも、または関連した別の症状で来院することも少なくないのです。