一週間ほど前から左手をつくときなどに左手関節の尺側（小指側）に痛みがあります
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は1週間ほど前から左手関節が痛くなったという14歳、女児のお話です。
左手をつくときなどに左手首の小指側あたりに痛みがありますが、ひねったりした覚えもなく、なぜ痛くなったのかわからないようです。昨日からは痛みが更に強くなり、家にあった湿布をしていましたが症状が変わらず来院しました。
今は手を前に出して手のひらを上に向ける動作だけでも7点（考えうる最大の痛みが10点満点として）の痛みが走ります。
話している間も座り方を見ていると、ひどい猫背で背を丸くして座っています。
この姿勢、これまで症例ファイルを読んでいただいた方にはピンとくるかもしれません。
まずは姿勢を矯正して1分ほど保持して、もう一度、さきほどの手のひらを上に向ける動作をやってみます。
さっきよりいいです……5点くらいかな
大きな変化ではないのですが、良い印象ですから引き続き評価を進めます。
頚椎の可動域検査では伸展（上を向く動作）をするときに首の後に痛みがあります。
他の動きには問題ありません。
伸展するときに後頚部に痛みがありますが、戻ると元通りで、続けても問題なさそうなレベルですから、続けて5回ゆっくりと自分のペースでしっかりと伸展してみます。
今何点くらい？
3点くらいです！
評価開始から半分以下になりましたので、方向性は決まりました。宿題を決めて初回評価を終了します。
しかし、伸展するときに後頚部が痛い状態はこの5回では変化がありませんでしたので、その点について、もしどんどん痛くなって首の痛みが残りそうになったときのために、別のオプションについても説明を加えておきます。
（RET＋EXTで後頚部痛が増悪した場合はRETのみでも可）
それから2日後。
もうなんともないようです。
昨日の朝まで少しだけ痛みがあったようですが、今日は全く症状がでていません。
初回評価時にあった頚椎を伸展する時の首の痛みもエクササイズを家でもやっていたところ間もなく消えてしまったようです。
念の為、エクササイズをチェックしてみます。
伸ばしきったときに、あまりつらそうには見えません。何がポイントだったのかを確認します。
限界までやった？きつそうに見えなかったから…
もう一度、限界までを意識してやってみます。
さっきより30°くらい曲がったね！
横で見ていたお母さんもうなずいておられます。
マッケンジー法による評価を行う場合、すでにあるエクササイズで十分な症状の改善が見られる場合には、基本的にはそれ以上負荷を増やすことはしません。しかし、一度習得したやり方も、時が経つとやり方を忘れたり自己流になっていくことが多く、一旦良くなってから数ヶ月以上も後になって、同じ症状で来院される患者さんもときにいらっしゃいます。
マッケンジー法では再発予防を重要なステージと考えています。そのため、診察室で一緒にどの程度の動かし具合でどの程度の症状の改善があるのか、あるいは症状が悪くならないのかなどを評価し、効果と安全性の確認できているやり方をその方の身体能力に合わせて指導しています。