3年来の両肩の痛み、特に夜中に疼いて毎晩目覚めます
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両肩の痛みで来院された80代女性のお話です。
痛みだしたのはもう3年ほど前のこと。あまりきっかけもなく、夜寝ている時に両肩、両膝がチクチクと痛むようになりました。昼間はさほどではないようで、今はどちらかというと膝より両肩の痛みで夜中に目覚めるのが辛いようです。
とはいえ、日中も肩が思うようには上がらないので、お布団を押入れにしまうときには手で挙げきれず、頭でおしこむようにして押入れにお布団を入れているそうです。
2年ほど前にある整形外科の医院にかかって毎週両肩の注射を受けた時期がありましたが、全く症状が変わらなかったためそちらの医院には行かなくなりました。以後、病院にかかることもなく、日中はほとんどテレビをみて過ごす生活を送っています。夜10時位には床につきますが、毎晩1〜2時ころになると痛みで目覚めて両肩の湿布を貼り直して再び床につくのですが、寝付くのに1〜2時間ほどかかり、寝入ってから朝7時半ころに目覚めるような生活を繰り返して来ました。
両手を挙げていただくと、90°で7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)となかなかな痛みのようです。
単純X線検査では頚椎には軽度の変形を、右肩には棘上筋腱付着部に微小石灰化、両上腕骨骨頭に軽度の骨棘形成による変形を認めますが、概ね動かして問題になるような重篤な所見はありません。
さて、座っておられる姿勢はご高齢の方によく見られる円背です。
まずはどの程度の姿勢矯正ができるかやってみます。
できるだけ姿勢を整えて1分。
両手を挙げてみましょうか
少しいいようにもありますね〜
(姿勢矯正保持 1分 B?)
80代ともなると、曲がった背骨を伸ばせない人が多いのですが、この方は比較的伸ばせることがわかりました。
しかし、頭を後ろに引くのがほとんど出来ていませんから、まずはそのあたりに集中してみることにします。
背筋をしっかり反らせるだけ反らして、またもとに戻って…これを10回繰り返します。
もう一回、両手を挙げてみましょうか
両手を挙げながら、
……今は痛くないみたい……
(SOC 10回 B)
先程より手の挙げ方もスムーズに見えます。
引き続きよりしっかりと反らすこと5回追加し、そしてもう一度手を挙げていただきます。
湿布はいらないみたいです…ありがとうございました。
嬉し涙がでてきました…
と、少し涙目でお答えになりました。ご高齢でもあり、また効果がすでに出ておりますので、初回評価はここまでとして宿題はシンプルに座ってできる姿勢矯正のエクササイズのみにしました。
そして翌日。
ご一緒に来られたご家族によると、かなり熱心にエクササイズをしておられたそうです。
そして……昨晩は湿布を貼らずに寝られたそうで、夜中も痛みで目覚めることはなかったとのこと。
一番嬉しいご報告をいただきました。
それでも、まだ少しは痛むようで、両手を挙げていただくと、3点程度の痛みがあります。
宿題にしていたエクササイズを10回していただきます。
頑張っておられただけあって、昨日より背が伸びてる感じがするなぁと思いながら見ていると、横で見ていた看護師が先に「なんか背が伸びたみたい…」と言いました。
もう一回、両手を挙げてみましょうか
両手を挙げながら、
痛くないです…
(SOC 10回 abolish B)
先程よりスムーズにより高く手を挙げても問題ありません。
ご高齢で背の丸まった方に姿勢の矯正をするなんて……そう思う方もあるかもしれません。
しかし、実際にやってみると意外にできる方もいらっしゃるのです。
肩の痛みといってもその原因は様々。今回は3年も前から続いている両肩の痛みだったようですが、1日の姿勢を整えるエクササイズで著名に改善しました。
高齢だから治らないのか、何年も前から続く症状だから治らないのか、レントゲンで変形があっても、そもそもその痛みが本当に肩の問題なのか……。
それはその患者さんに実際に動いていただき、その前後で症状がどのように変化するのかメカニカルに評価してみないと何とも言えないのです。