左足関節の軽い捻挫だったようですが、だらだらと痛みが続いています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は捻挫後の足関節痛が続くという11歳男児のお話です。
3ヶ月ほど前にサッカーの練習中、左足を踏まれた状態で転倒し、左足関節を強く捻って受傷しました。
その時は足関節の腫脹が強く、骨折が疑わましたが、単純X線検査では骨折はなく、シーネ固定(副木による固定のことです)を3週間ほど受けました。
その後、サポーター固定になり、1ヶ月程度で歩行可能となり、受傷から2ヶ月ほどで走っても問題ない程度に回復していました。
それから間もなくして、学校の授業でバスケットボールをしていて同級生に左足を踏まれて再び捻挫。しかし、今回は腫れることもなく、だんだんとよくなってはいるものの、3週間過ぎてもまだ痛みがあるため受診しました。
かなり前のことですが、左踵が痛くなった時に、整形外科でセバー病(踵骨骨端症の別名、発育期の子供の踵が痛くなる病気の一つで、シーバー病、Sever病とも呼ばれます)との診断を受けたことがあるようです。
まずは現時点の痛みがどの程度であるのかを確認します。
通常の歩行程度では症状はありません。
立ったまま右脚を前、左脚を後ろに前後に開いて、アキレス腱のストレッチのような動作で左足関節外側に3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の疼痛が再現されることを確認できました。
足関節の捻挫という明らかな外傷の後です。どのような順番で評価するのか……やはり腰から評価します。
明らかな外傷の直後で、局所の腫脹などがある場合は、局所から診察することももちろんあります。マッケンジー法による評価の結果はOtherという分類になり外傷に応じたマネジメントを行うことになります。
しかし、今回は1回目の腫脹が強かったという捻挫については治癒した後に、2回目の捻挫では腫脹がない程度の捻挫であったにもかかわらず3週ほど疼痛が続いている…このあたりが外傷ではない何かを疑うポイントでしょうか。
まずは腰の可動域をチェックします。とても柔らかく、いずれの方向にも全く制限はありません。
最近のお子さんにはよく見られますが、座っている姿勢は猫背で、姿勢はよくありません。
姿勢を矯正して保持すること1分。先程の痛みを確認してみますが、あまり変化はないようです。
今回は猫背の姿勢に着目して、まずは伸展方向にしっかりと腰を反らす動きを10回やってみます。
さっきやったアキレス腱を伸ばすのやってみようか
しっかりと伸ばしながら、
さっきより痛くないです
何点?
ん〜、1点くらい
(EIL 10回 D-B)
どうやら腰椎に関連がありそうです。
とても柔らかく楽に反ることが出来ているので、声掛けしながら限界まで仰け反るくらいにしっかりと、あと10回やってもらいます。
もう一回アキレス腱をさっきと同じように伸ばしてみようか
しっかりと伸ばしながら、
……痛くないです!
(EIL w/sag 10回 abolish B)
伸展方向でよさそうですが、日中、学校では寝そべる場所がないかもしれませんので、立ったままできるエクササイズのやり方を一緒にやってみて、問題ないことを確認しました。
日常生活上の注意点ややるべきエクササイズのポイントなど再度説明していると、また足首を動かしながら、
…なんか、また痛くなってきました
先程やってみた、立ったまま出来るエクササイズの効果を確認するチャンスですね!
さっきの立って腰を伸ばすのを5回やってみようか
その場で立ち上がって、先程練習した腰を反らす体操を5回。
足首の痛みはどう?
同じように足首を動かしながら、
良くなりました!
足を捻ってから続いているという左足関節外側の痛み。普通に考えると、いわゆる捻挫の症状が続いていると思う方が多いのではないでしょうか。
しかし、3週間前の捻挫では足首の腫れがなかったばかりか、アキレス腱を伸ばすような動作でしか症状が出ないという捻挫後の症状としてはやや不自然な印象でした。もちろん、左足関節の捻挫が局所が痛むきっかけになった可能性はあるのですが、評価の結果は左足関節ではなく腰椎のエクササイズで劇的に症状が改善しましたので、これはやはり腰椎に関連した痛みだったと言えるでしょう。
このような一見すると外傷のように見えて、実は局所の外傷が痛みの主な原因ではない外傷モドキをあぶり出すことができるのもマッケンジー法による評価システムの優れた点だと考えています。